番外編2 Panasonic NV-DM1 の音


はじめに

今までキャプチャボードと取り込みソフトの不具合ばかりを書いてきましたが、デッキ側の不満点もかかなければ公平ではないだろうということで、DV デッキの音について幾つか書いてみます。

使用している DV デッキは Panasonic の NV-DM1 です。定価 19 万で、実売 15 万前後というまあ、そこそこ高級なビデオデッキなのでは、と考えていました。

ボリューム調節

今までアナログキャプチャ環境で作業していて、DV 環境に移行したとき、最初に驚くのは画質の美しさと音量の小ささだと思います。

サウンドカード経由で音声を取りこむアナログキャプチャ環境では、音が割れる寸前までボリュームを調整することで、16 bit の量子化スケールをフルに使い切る事ができます。

しかし、DV キャプチャでは、DV 機器で A/D 変換されたデジタルデータを利用するため、PC 側で音量の調節をすることができません。また、DV 機器のデフォルト設定では安全側に振るためか、音量が小さめに設定されていることが多いようです。DV 機器側で音量調節をする必要があります。

そこで、NV-DM1 で、ボリューム調節つまみを右に2つ回してみました。結果、音は多少大きくなったのですが、別の問題が出てしまいました。次のスクリーンショットを見てください。

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あの〜、無音のはずなんですけど〜

CM の切り替わりであるため、本来は無音のシーンのはずなのに細かなノイズが(目に見える形で)出現しています。またこの状態でも、サウンドカード経由で取りこんだときと比較すると音が小さいと感じました。

当然ですが、サウンドカード経由で取りこんでいたときは、このような目に見えるノイズは存在しません。(と、いうよりも、存在しないようにボリューム調節を行う)

結果、慌てて、ボリューム調節つまみをニュートラルに戻しました。その状態では音は小さいものの、とりあえず無音部分で目に見えてしまうノイズはなくなります。次のスクリーンショットのようになります。

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ノイズは一応見えなくなる

このニュートラル状態での音量がどれくらいかというと、CM 1本を WAV 出力して、YAMAHA TWE で開くと判ります。次のスクリーンショットのようになります。

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p-p で 12401/13438 しか使ってない

画面左側にある、Max ch1, Min ch1, Max ch2, Min ch2 がデータの最大・最小値を示します。これで見ると、ch1 で ±6200、ch2 で ±6700 程度しか使っていません。また、オフセットも 0 から派手にずれています。さすが DV Codec で醜態をさらした Panasonic です。出荷時にどういう調整をしてるのか非常に疑問を感じます。(それともこれが実力なのかな〜、それはそれで嫌だけど)

S/N 比

音質をうんぬんする場合、フーリエ変換してスペクトル解析を行い、S/N 比とかいう数字を出してみるのが基本でしようという訳で、測定してみます。

まず、ノイズを計測します。具体的には、NV-DM1 の外部入力にビデオ信号のみを入れ、EzVideo で取り込みを行い、この AVI ファイルから PCM データを取り出すことで、ノイズのみの WAV ファイルを手に入れます。これを、efu 氏の WaveSpectra でスペクトル解析(33 秒間のデータのピークのみ表示)すると、次の図のようになります。

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ノイズのピークは、15.738 kHz で 82.8 dB

これから、ノイズは 82.8 dB であると判ります。世の中にはこれだけを測定して、S/N 比 82.8 dB とかいう人もいるようですが、S/N 比と言うからには、N(ノイズ)だけでなく、S(シグナル)の測定も行わなければ S/N 比を出すことはできません。

そこで、適当な CM、15 秒間のデータを記録し、同様に(ピークのみ表示で)スペクトル解析してみます。

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シグナルのピークは、820.3 Hz で 22.5 dB

シグナルのピークは、22.5 dB ですから、S/N 比は 82.8 - 22.5 で 60.3 dB となります。

これだけ見ると酷く悪い数値のようですが、この CM がたまたま音量の小さい CM であったという可能性もあるので、実際の S/N 比よりも小さく算出されている可能性はあります。

そこで、同じ CM を同時に、PC のサウンドカードで取りこんでおいたので、その S/N 比と比較してみることにします。使用するサウンドカードは Ensoniq AudioPCI64 (ES1370) です。

まずは、ノイズからです。次の図のようになりました。

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ノイズのピークは、23.4 Hz で 76.0 dB

一見こちらの方が酷く悪いように見えますが、NV-DM1 の場合、15.738 kHz に強烈なピークが存在しているため、結果としては良い勝負になってしまっています。

次に、シグナルです。次の図のようになります。

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シグナルのピークは、457.0 Hz で 12.5 dB

シグナルのピークが 12.5 dB ですから Ensoniq AudioPCI64 での S/N 比は 76.0 - 12.5 で 63.5 dB となります。

まさか、実売 15 万円の DV デッキに搭載されている A/D コンバータに、5000 円で買った PC 用サウンドカードに搭載の A/D コンバータが S/N 比で勝つとは思っていませんでした。まあ、こういう前科 のある企業(ひつこい?)の販売している商品なので、こんなこともあるのかもしれません。

原因は?

まず、NV-DM1 のノイズで目立つ点は、15.738 kHz のピークです。これさえなければノイズレベルは 100 dB 程度になるので、S/N 比は一気に 80 dB 近くまで上がり、AudioPCI をあっさりと下すことができます。

しかし現実には、このノイズのためだけに S/N 比は 20 近くも低下し、たかが 5000 円の、しかもノイズに満ち満ちた PC 内で A/D 変換しているサウンドカードにすら負ける体たらくとなっています。

では、この 15.738 kHz のノイズは、何に起因するものなのでしょうか?

勘の良い人なら既に気がついていると思いますが、NTSC 信号の水平同期周波数は、29.97 * 525 = 15.73425 kHz です。ノイズのピーク周波数と非常に近い値です。

そうです。ビデオ信号がノイズとなって、オーディオ信号の A/D 変換部分に染み出しているのです。

ここまで(原因まで推測できる程に)判りやすいノイズの場合、機体固有の問題だとは思えないので、これが実力であると考えるべきでしょう。(もし、同じ実験をしてこのノイズが出なかったら、どうか教えてください。修理が可能か電話してみますので)

潜在的能力としては十分な性能を持つ部品を使いながら(ノイズフロアのレベルから判断できます)設計時の手抜きによってあたらその能力を発揮できないままに腐らせる。既に買ってしまった身としては、笑って楽しむしかないですね。

いくらデジタルビデオデッキとは言っても、入出力のアナログ部分にはもう少し気を使ったほうが良いのではないかと素人ながら考えてしまいます。どうなんでしょう?

内蔵チューナだとどうなるの?

さて、ここまでは NEC 製の外付け GRT チューナ GCT-500 から、NV-DM1 の外部入力に入れたデータで比較していたのですが、ここで、音質が悪いと評判の内臓チューナで試してみるとどんな素晴らしい結果がでるのだろうという興味が出てきたので、試してみました。

結果、次のようになります。GCT-500 + AudioPCI でキャプチャしたデータと、NV-DM1 の内蔵チューナを利用して、そのまま録画した場合のスペクトル解析結果です。取りこんだデータが異なるので厳密な比較には使えませんが、15 秒間のピークのみ表示ですので大体の傾向をつかむことは出来るはずです。

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15.873 kHz だけ逆転している

青が GCT-500 + AudioPCI で、赤が NV-DM1 のデータです。他の周波数では 10 〜 20 dB ほど NV-DM1 のデータが小さいのですが、15.738 kHz でだけは NV-DM1 の方が 10 dB 大きく取りこめています。

ここから、内蔵チューナを使用すると、より酷くビデオ信号の染み出しが発生すると言うことが出来そうです。やはり、世間の評判どおりで内臓チューナの音質は素晴らしいもであったようです。


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最終更新 2000, 6/29