今期、文化庁の文化審議会 著作権分科会には「著作物の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」というものが設置され、本日までに第4回まで開催されてクラウドサービスと著作権法の関係についての検討が行われています。
ここで年季のいった文化庁観察者なら「クラウドと著作権の関係って前 [2012/1/12 開催の第6回の感想記事] にも検討してなかったっけ?」と思うかもしれません。それがなぜ今頃また検討が行われているかと言うと……前回の検討の際には「クラウドに特有の問題ではなく著作権法全体に関わる問題なので」と検討を回避していたのが知財本部等から「今年度前半中にクラウドに関する懸念に対して結論を出せ」と尻を叩かれて慌てて検討を行っているというのが正直な経緯です。(開催頻度が高いと趣味の傍聴者としてはついて行くのが大変なのでなるべくやらないでほしいのですけどねー)
さて、クラウドサービス等の検討が必要になっている理由ですが2012年1月当時と何も変わってはいません。2011年に出た「まねきTV」および「ロクラクII」最高裁判決文で示された「利用行為主体」概念や「公衆」概念を踏まえると、「クラウドサービスや VPS、レンタルサーバー、データセンター事業者が著作権侵害の行為主体とみなされる可能性があるのではないか」、「直接行為主体とみなされないとしても、クラウドサーバー等が「公衆用設置自動複製機器」に該当すると見なされて事業者が著作権法 第119条2項2号の罪に問われ、刑事罰対象となるのではないか」という懸念が存在し、その懸念を払拭することが産業界からの要望として上がっているというのが最大の原因です。
付随的な要因として、諸外国においてクラウドサービスを著作権上適法なものとして扱う法整備が進み、コンピューターOSやスマートフォンOSがクラウドサービスを前提としたものしか提供されなくなりつつあるというより差し迫った懸念も原因として挙げられるかもしれません。また、これは今期に検討が再開された理由とは異なりますが、今年の 5 月にアメリカで出た Aereo 事件の最高裁判決が日本での「まねきTV」「ロクラクII」最高裁判決と結論こそはほぼ同旨であるものの、ネットワークストレージサービス全体に対して与える影響を最小化するように十分に配慮した判決になっていたという点もあるかもしれません。
こうした産業界の懸念をもっともよく体現してくれているのが、権利者側委員として小委員会に参加されている、芸能実演家団体協議会の椎名委員が第1回の発表に際して提出した資料 [公式 PDF | スキャン版] です。
この資料の最後のページ「ロッカー型クラウドサービスと著作権に関する法的論点について」の「3. 公衆設置自動複製機器該当性」という箇所をご覧ください。該当文章を下に引用します。
ユーザー自らがサーバーなどの「複製手段」を自前で調達して行う(不可能ではない)場合は「私的複製」の範疇と解される可能性があるが、この場合は、まさに30条において規定されている「公衆の使用に供することを目的として設置された自動複製機器」に該当する
椎名委員が資料のこの箇所を説明した後の質疑について、インターネットユーザー協会 (MiAU) から参加している津田委員とのやり取りが公式議事録に次のように残されています。
椎名さんは先ほどの発表の中で,ユーザーがサーバーを調達して自宅で自分目的で利用することでも,それでも公衆用の設置の自動複製機器ではないかということで,そういう理解ではないのですか。それではない。僕が利用しているのは,それは違うということですね。
このやり取りと資料の文章と、共に正しいとすると椎名委員は次の主張をされたのだという結論に到達します。
私は当日、この発表とやり取りを傍聴席で聞きながら「正気か?」と呻いてしまいました。椎名委員の主張を受け入れると、レンタルサーバー・クラウドサーバー事業者は「個人」と契約する場合には刑事罰におびえなければいけないということになりますから。
私は 2011 年の 1 月に、「まねきTV」「ロクラクII」に関しては違法という扱いでも問題は少ないかもしれないが、社会通念上適法であるべきレンタルサーバー一般との区分が明瞭でないとして最高裁判決を批判 [参考] しました。今でも「まねきTV」「ロクラクII」最高裁判決はクソだと思っています。(どうせ個人利用レンタルサーバーで著作権侵害の訴訟が発生してロクラク判例を引いても「事例を異にしており」の一言で片づけてどう違うのかの説明は一切ないのだろうと邪推しています)
その「社会通念上適法であるべき」と書いたレンタルサーバーを、正面から「公衆用設置自動複製器に該当する(著作権法119条2項2号の対象だ)」と主張してくれたのだから私の衝撃は想像していただけるのではないかと思います。
ここまで読めば、なぜクラウドサービスに関する著作権の検討がこれほどの高頻度で行われているか、理解していただけたのではないかと思います。
ところが……ユーザー団体代表委員ということで参加している津田委員の第三回の発表を聞くと……「検討には慎重であるべき」「技術ワーキングを作っては」という内容でして……。
クラウドサービスに対する私的録音録画補償金の導入を阻止すれば勝利条件達成と勘違いしてるんじゃないかなーと不安になったりします。この小委で著作権法30条1項1号をどうにかしない限り、勝利条件達成とは言えないと思うのですけれどねー。