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1月19日(木) 文化庁 文化審議会 / 著作権分科会 / 法制問題小委員会 / 第六回 感想 [1] [この記事]

先週、1 月 12 日 (木) に、平成 23 年度 第 6 回の法制問題小委員会が開催されたので、前回までと同様に傍聴し、非公式議事録 [URI] をでっち上げました。

今回は本年度最後の法制問題小委員会ということらしく、著作権分科会への報告を行うためのまとめが主目的で、次の 4 つの議題について報告・質疑が行われました。

  1. 国会図書館から他の図書館への電子化資料の配信関連
  2. インターネット上で複数者が創作に関与した著作物の取り扱い関連
  3. 間接侵害の差止請求関連
  4. クラウドサービス関連
◆◇◆

最初の、国会図書館からの配信に関する議題については、前回まででほぼ議論が尽くされ、懸案であった配信先図書館での部分プリントアウト問題に関しても、「電子書籍の流通の<略>検討会議」の側で、パブリックコメントを受けて報告書(案)の改定が行われ、配信先での部分プリントアウトを認めるという内容になったため、特に問題となることもなくほぼ無風状態で報告書(案)の承認が行われました。

前々回、法制小委 第 4 回を傍聴しながら、新しく補償金制度が導入されるのではと気をもむこともありましたが、最終的には現在の 31 条で物理形態であれば可能であることを、電子化データでも可能とするという形に落ち着いたので、順当な結論だと思います。「電子書籍の〜」のパブコメに対して意見を投げた方々は、配信先での部分プリントアウトが認められるようになったことについて、パブコメの成果であると誇って良いと思います。

◆◇◆

二番目のインターネット上で複数者が創作に関与した著作物の扱いに関しては、「立法的な解決は困難でクリエイティブ・コモンズに代表される著作権ライセンスや、各サービス毎の利用規約といった契約による解決を進めていくしかない」という内容が報告の骨子でした。現段階ではそれ以上の解決は難しいのだろうなと思うものの「文化の発展に寄与」すべき著作権法が、規約等の契約によってその権利行使に制限が加えられることによって、創作等がさかんに行われているという状況に対して「法制問題小委員会」として疑問を感じることはないのだろうかと思います。

昨年度の法制小委としてまとめられた「日本版フェアユース」ではパロディ等の二次創作を救うことは考えない(フェアユースの対象となる類型に含めない)とされている訳で、さらにこの報告書のまとめのように「契約・規約」でなんとかしてねと丸投げするのだとすると、著作権法が「文化の発展」の障害となっていると考える人は増えていくのだろうなと考えます。

知財本部では知財推進計画 2012 に向けてパブコメの募集 [URI] が始まっていますが、知財推進計画 2011 で「パロディについて考えろ」とされていたにも関わらずこういう結果な訳ですから、知財本部のパブコメや、今後募集されるであろう著作権分科会報告書のパブコメで嫌味を投げてあげるのが良いと思います。

◆◇◆

三番目の間接侵害の差止請求の問題について。この問題の背景は現行著作権法では、直接の権利侵害の行為主体に対してしか侵害の差止請求を行うことができないと解されているため、これまでの「クラブ キャッツアイ」「ときめきメモリアル」「選撮見録」「MYUTA」「まねきTV」「ロクラクII」と事業者のサービスや製品を権利者が差し止めようとして行われた訴訟では、実際の行為主体を「事業者」であると無理やり解釈して、差し止めを認めるというような判決が下されてきたことにあります。

それらが極まった、昨年 1 月の「まねきTV」裁判と「ロクラクII」裁判では「公衆送信主体」「複製主体」の両概念の拡張解釈が行われ、判決文を読んだ一般人が「データセンターで FTP サーバを運用したら、データセンター事業者が公衆送信主体とみなされるの?」「クラウドサービス全滅じゃない?」と懸念の声を上げるような状況まで行き着いてしまいました。

また、行為主体を実際に「機器の操作をした人以外」と認定するような判決を出すということは、その判決の逆の状態を作り出すことで、実際に複製の作業を行っていないにも関わらず、複製の行為主体とみなされ「私的複製」と認められるという状況が出てきてしまうということでもあります。この点について文句を付けた記事が昨年 12/28 の戯言 [URI] です。

この流れがさらに進むようなことがあれば、コンビニのコピー機を使ったコピーまで「コンビニ店舗が複製主体である」と認めるような判決が出る可能性も否定できず、そうすると「著作権法 30 条 1 項 1 号(公衆が利用可能な自動複製機械)って何が該当するの?」と著作権法の法文構成に対して深刻な疑問が出るのではないかという心配も杞憂とは言い切れない状況となっていると、私は考えています。

そうした問題の背景を受けて、法制問題小委員会が出した解決策が「直接の侵害者じゃなくて間接的な関与者でも、その行為を差し止め可能にすれば行為主体認定しなくても OK だね」ということでして、現在は延々と検討され続けてきたこの件が、いよいよ報告書と言う形にまとまり表に出てきて、来年度から本格的に法制小委の場で検討が進んで行くという状況にあります。

日経新聞ではこの件について「適法な範囲を明確にするため」という牧歌的な記事 [URI] を書いていますが、決してそんな生易しい内容ではないと私は考えています。この件は、おそらく来年度の法制問題小委員会のメインテーマにになるのだろうなということで、来年度も継続して傍聴を続けていこうと考えています。

◆◇◆

最後に残ったクラウドサービス関連についての報告ですが、こちらは私が一番期待していたところで、色々と書いておきたい内容も多いので、明日、改めて記述することにします。


1月22日(日) 文化庁 文化審議会 / 著作権分科会 / 法制問題小委員会 / 第六回 感想 [2] [この記事]

予告から 2 日ほど遅れてしまいましたが、1/12 に開催された第 6 回法制問題小委員会の感想の続きです。今回は当日の議題 (4) として発表されていたクラウドサービスについての内容紹介と、その内容への感想です。

そもそもこうした発表が行われることになった背景ですが、元々、クラウドサービスを日本で展開する場合、著作権上問題ないのかという懸念が上がっていたのにも関わらず、「まねきTV」「ロクラクII」両裁判で、最高裁が事業者を侵害行為(公衆送信・複製)主体とするために利用した論理が、判決文を素直に読むと、社会通念上適法であるべきインターネットデータセンター事業や VPS サービス事業まで「違法」であるとすることも可能なものだったという事情があります。

当然、クラウドサービス事業者およびインターネットサービス事業者からは「著作権法」上適法となるように明確化してくれという要望が出るわけで、その結果、文化庁が「三菱 UFJ コンサルティング」に委託して検討が行われ、第 6 回の法制問題小委員会で報告されたという次第です。

で……当の報告書 [公式 PDF | スキャン版] の 2 ページ目、検討委員会の構成員名簿を見ると……事務局に文化庁著作権課の方々が加わっておられて……これを「文化庁の検討委員会 (ある程度公開が必要とされる) 」ではなく「委託研究委員会」とした意味について、陰謀論じみた邪推(よっぽど傍聴&議事録作成&議事要旨作成されたくなかったんだろうなぁ)を抑えることができませんでした。

まあそういった本筋から外れることはさておき、報告の内容紹介をしていきます。この報告に関して、日経新聞にて文化庁が「法改正は必要ない」とする報告書をまとめたという記事 [URI] を出していますが、まあ、報告書本体と会議席上での苗村 検討委員会 座長の発表 [URI] はそこまで酷いものではなく「クラウドコンピューティングに特有の課題ではなく、著作権法全体の課題なので、(30条等の) 検討を一層進めるべき」という内容でした。

ただ、最高裁の立場に対して配慮でもしたのかなるべく最高裁判決に対して批判的にならないように言葉を選んだ内容になっていたので、日経新聞の記者が「文化庁は法改正が必要ないと考えている」と誤解をしたとしても仕方が無いのかなと思います。

◇◆◇

ここは非常に重要なところなので「まねき TV」および「ロクラクII」裁判の最高裁判決についてもう少し詳細に説明してみます。まず「まねき TV」裁判の最高裁判決は [URI] で、「ロクラク II」裁判の最高裁判決は [URI] で参照可能なので、少し長いですが未読の方は読んでみてください。

両判決文には上告人 TV 放送事業者の代理人として、法制問題小委員会の委員である「松田政行」委員の名前が見えることが気になる人もいるかもしれませんが、そこは本筋と関係ないので置いておくことにします。

さて「まねき TV」裁判で最高裁判決が出るまでは、東京地裁判決、知財高裁判決に見られるように送信機と受信者の間で個人認証機能があり、特定の者しか通信ができない場合は「公衆送信」にはあたらないという解釈が多数説でした。これは著作権法 第 7 条 1 項 7 号の 2 にある公衆送信の定義から、特定者間の 1 対 1 の通信は公衆送信にはあたらないという自然な解釈から導かれるものです。

これに対して最高裁判決では「送信者は、ベースステーションの所有者ではなく、支配・管理下でアンテナ線をベースステーションに接続して放送をベースステーションに入力した『まねきTV』事業者である」と送信行為の主体をサービス事業者であるとした上で「送信者である『まねきTV』事業者から見て、受信者である個々の契約者は誰でも契約できる以上公衆であり、『まねきTV』は公衆送信となる」として知財高裁への差し戻しを行いました。

一方、「ロクラクII」裁判では知財高裁判決が「複製の主体はロクラクII親機に対して、複製の指示を出した契約者であり、適法な私的複製である」としていたのに対して、最高裁判決では「複製の主体は支配・管理下においてロクラクII親機に対してアンテナ線を接続し、放送をロクラクII親機に入力した『ロクラクII』事業者である」と複製行為の主体をサービス事業者として知財高裁への差し戻しを行いました。

◇◆◇

さて、この「まるも製作所」というサイトは「さくらインターネット」[URI] の運営する「さくらの VPS」というサービスを利用して、その上で運営されています。物理的なサーバーは、NTT の運営する大阪のデータセンターにあり、さくらインターネットが一括契約しているラックに挿入されているサーバの CPU コア・メモリ・HDD スペースを割り当ててもらう契約をして、そのリソースを契約者が(OSのインストールレベルから)自由につかえるというサービスの上で運営されています。

特に「さくらインターネット」は料金の低廉さとユーザに与えられる自由度の高さから個人ユーザの利用が多く、私のようにサーバの管理があまり苦にならないという人が多く利用しています。そうした個人ユーザにとって、「さくらの VPS」や「さくらの専用サーバ」などで借りることのできる環境は、手元に存在しないだけで、自分の専有できるコンピュータであり、そのコンピュータ上で行われる複製は当然私的複製であるし、送信の主体は契約者である利用者であるという認識でいる方が多いと思います。

そうした人間の目から「まねき TV」「ロクラクII」両最高裁判決を見ると、例えば私が利用している「さくらの VPS」に関して、「複製主体は、その支配・管理下において VPS ホストに対して Ethernet ケーブルを接続し、情報の入力を可能にするという複製の実現における枢要な行為をおこなっている VPS 事業者である」「送信主体は、送信装置である VPS に対する複製の主体である VPS 事業者である」「送信主体である VPS 事業者から見て、個々の契約者は公衆であるので、ユーザ ID / パスワードによる認証機能を行っていたとしても、公衆送信である」という悪夢のようなドミノ理論が成立する可能性があるのではないかと心配になります。

◇◆◇

これは妄想ですが、仮に最高裁のサイトが安定性の為にデータセンターで運営されているとしたら、例えば SOPA に対する抗議として英語版ページのブラックアウトを行った wikipedia が最高裁サイトの置かれているデータセンターに対して上の悪夢のドミノ理論を使って事業差止請求を行えば www.courts.go.jp を止めることができるのだろうかと考えたりもしました。

実際に traceroute/whois 等で見る限りでは、www.courts.go.jp は最高裁の庁舎内にありそうなので、上記妄想の実現可能性は低そうなのですが、むしろそうした妄想的な訴訟が実現して、「まねきTV」「ロクラクII」法理の限界点を明らかにするような判決が出てくれないものかなと考えたりもしました。

◇◆◇

「クラウドサービスと著作権に関する調査研究」報告に対して、私が大いに期待をかけていたのは、以上のような懸念に対して「そういった懸念は成立しない」という明快な論旨が示されるのではないかと考えていたからです。

実際に報告書の中身を詳細に見ていく前ではありますが、前置きだけで長くなりすぎてしまったので、報告書の内容の詳細検討は明日に回します。


1月23日(月) 文化庁 文化審議会 / 著作権分科会 / 法制問題小委員会 / 第六回 感想 [3] [この記事]

昨日の続きです。今日は、法制問題小委員会 第 6 回 資料 4 「クラウドコンピューティングと著作権に関わる調査研究」報告書 [公式 PDF | スキャン版] が、私のような VPS サービスを個人で利用している人の「『まねきTV』『ロクラクII』最高裁判決ってものすごく危険じゃない?」という懸念を解消することができたかという視点から詳細に見ていくことにします。

結論から言うと、報告書の内容は、私の懸念を払底させるには不十分なものでした。最も重要な利用主体性に関しての判例検討については報告書 18 ページ (PDF での 21 ページ) で「(まねきTV・ロクラクII 最高裁について)判決の射程は設定された事例・場合に限定されており、テレビ番組の転送サービスを超えて及ぶものではないとする見解がある」とされているだけで、なぜそうした見解となるのか、そのように判断した根拠、一般のデータセンター・VPSサービスが適法で、ロクラク II・まねき TV は違法であるとするならば、何処でそれが区切られるのかという明快な論旨は示されませんでした。

実際「ロクラクII」最高裁判決において金築誠志裁判官の次の補足意見に示されているように、裁判所は著作権法の法文を如何様にでも「解釈」してみせると宣言している訳で、まったく安心することはできないと考えています。

著作権法21条以下に規定された「複製」,「上演」,「展示」,「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。
平成 21 (受) 788 著作権侵害差止請求事件 平成23年1月20日 判決文

これを読んだだけでは、あたりまえのことが書いてあるだけだと思うかもしれませんが、「総合的に判断」した結果が、「支配管理下でアンテナ線をつないだら公衆送信主体&複製主体」ですからねぇ、今後示されるであろう「総合的な判断」とやらも推して知るべしといったところでしょう。

さらに、報告書では紙幅の都合もあって概要的な内容しか書けなかったのかもと考えて上で引用した「射程はテレビ番組の転送サービスに限定される」という部分で参照されていた「ジュリスト 1423 号 (2011 6.1)」の「まねきTV・ロクラクII最判のインパクト」という特集を読んでみましたが、報告文では紹介されなかった次の指摘が当然のように行われていました。

  両判決のインパクトと言う場合,厳密な意味での判決の射程の問題と、両判決の射程外ではあるが,両判決と同様の法的効果,すなわち利用主体と認められる場合があるか,という問題を区別する必要がある。
  (途中略)
  このように,判決の法的結論を導いた重要な事実は何か,という厳密な意味での射程に限れば,両判決のそれは広いものではない。
  一方,判決の射程からは外れるものの,両判決によって,「カラオケ法理」以来の侵害行為主体の規範的認定が法解釈の一般的手法として公認されたこと自体のインパクトは,直ちに測り知ることがむつかしい。
  (途中略)
  今後は,法律家にとって,ある新規事業が「まねき TV」「ロクラク II」の判決の射程外である,と指摘するだけでは立ちいかず,両判決の射程外としても,両判決の趣旨から見て,事業者が利用主体とされる場合はあるのか,あるとしてどのような場合か,といった判断が求められよう
小泉 直樹「まねきTV・ロクラクII最判の論理構造とインパクト」(有斐閣 ジュリスト 1423 pp.10-11)

上記引用で太字にした部分で「射程外と指摘するだけでは足りず、最高裁判決の趣旨からみて事業者が利用主体とされるかどうかの判断が必要」とあるにも関わらず、報告書では同論文を引きながら「クラウドサービスは判決の射程外」とするだけでそこから先に踏み込んでいないのですから、懸念・心配は深まるばかりです。

また、同特集の中で「クラブ・キャッツアイ」事件という先行事例(最高裁において著作権法の行為主体に規範的解釈が持ち出された最初の事例) を研究した論文では、次の意見もありました。

  (前半略) クラブ・キャッツアイ事件最高裁判決の理由説示を分析することによって抽出することのできた「管理・支配」と「利益の帰属」という 2 つのメルクマールは,「著作物の利用主体」という総合評価を導くための「要素」であって,それぞれが独立した「要件」ではないことを理解することができる。そして,著作物の利用主体性の外延を画するという目的を考慮すると,2 つの要素のうち「管理・支配」の要素が重要であることが明らかになる。
  したがって,経済的観点からする「利益の帰属」が全くない事案(愉快犯としての著作権侵害事例を想定してみると分かりやすい)であっても,「管理・支配」の要素に当たる具体的事実の集積のみによって,利用主体性ありと評価されることがあっても何ら不思議はない
田中 豊「利用 (侵害) 主体判定の論理──要件事実論による評価」(有斐閣 ジュリスト 1423 pp.15)

上記引用部で太字となっている箇所は、特に重要と考えたので強調の為には私が太字にした部分です。「管理・支配性」のみ で著作権法上の利用主体となりうるのだとすると、1/19 の感想 [1] [URI] で間接侵害関連の箇所で触れたように「コンビニのコピー機は、コンビニ店舗が複製主体である」という解釈すら成立してしまうのですが……そのように考える「法律家」も居るという恐怖を共有していただけるでしょうか。

◇◆◇

クラウド報告書の中身に戻ります。利用主体性の次に重要な「公衆」性に関して、報告書では 22 ページ (PDF ページ数では 25 ページ) で実に歯切れ悪く、各機器の利用可能領域が「個人」と強固に結び付いていれば「公衆」性が否定される余地があるような書き方をしていました。

ここに関してはまねきTVのように各ハードウェアが分離している場合であっても公衆性を認めている最高裁判決を見ながら、どーいう解釈をすればそういう主張が考え付くのかなぁと首をひねりつつ傍聴していました。

実際、この報告書では参照されていないものの、ジュリスト 1423 号の特集では次の記述もある訳で……。

  ここで,本件を前記「まねき TV」最高裁判決の観点を援用して検討してみる。何人も日本デジタル家電との関係等を問題とされず日本デジタル家電と契約を結ぶことにより「ロクラクII」サービスを利用できる以上,日本デジタル家電から見てユーザは不特定の者として公衆にあたると言えよう。とすると,親機ロクラクは公衆たるユーザの指示に従い複製を自動的に行う機器であり,著作権法 30 条 1 項 1 号に言う「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し,これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器を言う。)に当たると考えられる。 (途中略) 本件は複製の主体で争われたが,「まねき TV」で示された公衆の概念に照らせば,「ロクラク II」は「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機械」に当たり,日本デジタル家電は著作権法 119 条 2 項 2 号の規定により刑事罰の対象となる(ただし親告罪)。(以下略)
上原 伸一「放送事業者の著作隣接権と最高裁判決のインパクト」(有斐閣 ジュリスト 1423 pp.21)

上で引用した意見はレンタルサーバー・VPS 事業者や利用者からすると非常に恐ろしい見解ですね。誰でも契約できる以上、利用者が 1 人でも公衆で、コンピュータは自動複製機器となり、公衆用自動複製機械は著作権法 119 条 2 項 2 号で刑事罰対象ですから。

少なくとも「まねき TV」最高裁判決が出るまではレンタルサーバ・VPS 事業は本質的に適法な事業であったものが、「まねき TV」最高裁判決以降では、本質的に「違法」であって、たまたま訴える権利者がいないが為に継続できている事業であると主張する「法律家」も現れているわけです。

この「公衆」性の評価について、正直クラウド報告書の記述者の最高裁判決への配慮はその努力が非常に大きなものだったのだなぁと感じ入ります。

◇◆◇

まあそういった不十分な報告書ではありましたが「クラウドサービスに特有の問題ではなく著作権法に関して旧来から指摘されてきた問題であるものの、クラウドサービスの進展に伴い問題の影響や規模が拡大するので検討を進めることが必要である」と玉虫色の表現で検討の継続を訴えています。

私は、とりあえずこの報告書を受けての来年度以降の検討を見守るつもりでいますが、個人ユーザでレンタルサーバ・VPS を今すぐ利用したいという人で、無用な法的リスクを避けたいのであれば、日本の事業者ではなく Amazon EC2 のようなアメリカの事業者を選択した方がよいかもしれないと考えています。

◇◆◇

最後に、両最高裁判決に関して、上告人代理人弁護士として活躍された「松田政行」委員が、法制問題小委員会 第6回の最後で演説 [URI] されていて、その趣旨は「最高裁判決は、事業者が情報の取り込みを行っていたが為に利用主体として認められたものであり、ユーザが情報を供給するロッカー型クラウドサービスとは異なる」というものでした。

この演説は……やっぱり東京地裁での「MYUTA」事件判決に対する批判として捉えるべきなんでしょうね。「MYUTA」事件はユーザが入力した楽曲ファイルを携帯電話向けに変換してダウンロード可能にするというサービスで、松田委員の言う「ユーザが情報を供給するロッカー型サービス」そのものでしたから。

◇◆◇

そんな訳で、本年度の法制問題小委員会での検討は、こんな結果になりました。どれほど無視されようとも知的財産戦略本部のパブコメ [URI] に対して意見を応募しようという不屈の熱意を持つ方は、パロディ等の二次創作、クラウドの問題といった辺りが突っ込みどころと考えますので知財本部経由で文化庁の尻を叩いてやるのも有効ではないかと考えます。


1月26日(木) デジコン委 第61回 傍聴レポ [この記事]

執念深く傍聴を続けている総務省、デジタルコンテンツの流通の促進等に関する検討委員会の 第61回が 1/23(月) に開催されたので、手抜きモードでですが、傍聴レポートを置いておきます。まだ総務省のサイトに当日配布の資料があがっていないので、当サイトにスキャン版 [URI] を上げておきます。必要に応じて参照してください。

今回は、本年 7 月に情報通信審議会(親会)に出す報告書に向けての検討の方針 [URI] を示し、また、これまで総務省が取り組んできたテレビ放送番組の流通促進策 [URI] を披露した後、野村総研 (NRI) からのクラウドサービスの状況報告 [URI] と、放送事業者によるネット配信への取組の状況報告が NHK [URI | URI] および TBS [URI] から行われるという流れでした。

当日 twitter でも残したこと [URI] ですが、次の 2 点は重要と考えたので、改めて記述しておきます。

特に重要なのは下の方と考えます。こちらのユーザ意識調査はインターネットを利用したアンケートで行われるらしいので思うところのある方はアンテナを上げておくようにしましょう。

◇◆◇

以上の発表の後、少しだけ質疑・意見交換が行われましたが、その内容は概ね次のようなものでした。

華頂委員 (日本映画連盟):
資料 1 の 2 ページに下線を引いて「クリエイターへの対価の還元についての議論」とあるが、検討スケジュール案を見ると、それについての記載がない
これについて、どのような取り扱いがされていくのか教えていただきたい
事務局:
私的補償金の制度以外で検討することになっている
権利処理の円滑化・不正流通の削減・新しいプラットフォームの準備、そうしたものを通じてコンテンツ利用の範囲を拡大し、クリエイターへの対価還元を検討という流れと理解している
今後もクラウドサービスの登場を見て、どのようなやり方があるのか皆様から提案いただいて議論していきたい
華頂委員:
今後行われる会合全てに関わってくる問題、そういう取り扱いでよいか
事務局:
もちろんそういうこと
色々な課題を検討する中で、クリエイターへの対価の還元を念頭に置い議論を進める予定
椎名委員 (CPRA):
コンテンツ流通振興策によって結果的に対価の還元サイクルを太くしていくという話があった
一方で、今日のレポートでコンテンツの価値が下落していく、利用は拡大するけれど、価値が下落していく、番組制作の予算が下がってきているという状況がある
そうした中で、コンテンツを取り回す利便性が向上すればするほどそうしたビジネスへの影響が与えられてくるという構造はパッケージから配信にシフトしたとしても変わらない
個人の利便性ということで整理すると、ダビング10という著作権保護ルールを検討する上で、対価の還元が俎上に上り、関係者の協議を期待してスタートしたダイビング10だが、一向にそうした協議が進んでない
補償金制度以外と書いてあるが、補償金制度に変わる何らかの対価の還元のソリューションを考えていかなければいけないのではないかと受け取っている
今、まさに裁判が行われており、ダビング10の対応機器でデジタル放送のチューナしか持たないものは補償金の対象であるのかないのかという極めて限定的な議論がされている
その裁判の影響で、補償金制度をどうするのかという議論が全く進まない状況にある一方で、権利者への対価の還元が細くなっている
こうしたことは、国のコンテンツ保護の基本に座る仕組みやルールという問題として、行政の場で議論が進められるべき問題だと思う
この問題をそうした観点から今後検討していっていただきたいと強く思ってる
長田委員 (東京都地域婦人連盟):
総務省に質問、資料 2 のコンテンツの不正利用で、動画投稿サイトを利用したことのある人が 62.2% で、かつ P2P の利用実態も 2 割ということだが、調査対象はどのような方々なのか
非常に高い数字かなと感じた
今後、ユーザの意識調査をすることになっているが、調査方法によって数字が変わってくるのではないか
事務局:
調査方法は、総務省で実施したネット調査で PC 利用者
今後実施する総務省の調査も、予算・スケジュールの都合で PC・ネットユーザでの調査を検討している
長田委員:
だとすると、PC ユーザを対象にした調査だけで「日本国民に換算すると」という表現は違うのではないか
村井主査 (慶応大学教授):
動画投稿サイトを利用したユーザ割合が 60% を超えるデータがあるところに、タイトルが「コンテンツの不正流通」となっているということも、実態とのアレがあっているのかと思う
最近のテレビは動画投稿サイトに接続する機能があり、それが不正だというところは課題があって、それは華頂さん・椎名さんに指摘された権利との関係というのが、今日説明いただいた新しいモデルの中で、どのように考えられるべきか議論することが必要
現状のこういった新しいサービス、今日はクラウドについて説明してもらったが、どういった課題を持っているのかということも理解して議論していく必要があると思う
畑委員 (日本レコード協会):
総務省に一点質問。資料 2 の「放送コンテンツの権利処理一元化の推進」というところで映像コンテンツ権利処理機構というところをコアにして、全ての権利処理に関わる実証実験を行って検討していくという趣旨と理解してよいか
事務局:
これは現在三年計画の二年目で実験中
権利処理の窓口が分散していたのを一元化し、ネット上で手続きを行うことを可能にしたもの
今年は利用料の支払いもシステムに載せる予定。おっしゃる通り、この権利処理機構が中心となって議論を進めてもらう予定
河村委員 (主婦連合会):
今日のところは思うところをあまり言わないようにしておこうかと思ったが、権利者さんから発言もあったので、利用者の立場からも
TBS の動画コンテンツ配信への取組を報告いただいて、色々な努力をされて売り上げ推移も伸びている
私は元々、こうした配信の売り上げと、ダビング10の問題は無関係と思っていた
コンテンツが網羅的に、使いやすいサービスでリーズナブルな値段であれば、網羅的に個人レベルで撮っておくということは、よほど個人で思い入れのある何か以外は録画しなくなるだろうと思っている
TBS の方が仰ったように、不正流通云々という前に、きちんと権利処理された正規のものを沢山、バラエティを持って用意するということが不正なものを駆逐していく道と思う
しかも不正流通に関してはアップロード側を取り締まれば十分なのだから、日本中の録画機を持たない方のテレビも含めてダビング10という仕組みが支配し、その為にカードやカードに換わる方法、さらに新しい社団法人ができる
録画を11枚以上させないということの為になぜこれほどの馬鹿げた方策をかけるのか
そうしたことに予算・エネルギーをかけるのではなく
権利処理されたコンテンツを沢山流せば、人の手足を縛らなくても、こんな面倒なことはしなくなるだろう
録画の必要がなくなるほどに、多様なコンテンツを用意して多用なニーズに応えるという仕組みが使いやすくできることを目指して欲しい
権利者の方が言うように、便利になればなるほど権利者の利益が薄くなるという方向では、便利にならない世界を想定しなければならず、非常に不幸なことに思う
私が今いったような方向での検討を、是非、お願いしたい

質疑・意見交換は以上のような形で、今回のところは事務局の出方を伺うためにジャブを投げ合っているような感じでした。次回、第62回からが本番になるのかなということで、総務省サイトに開催案内が出たら忘れずに傍聴申請しようと考えています。(ここのところデジコン委の開催案内公開が傍聴申請締め切りの 60 時間前になってるので見逃さないように気をつけつつ)


1月30日(月) 文化庁 / 文化審議会 / 著作権分科会 第 35 回 感想 [この記事]

今期の法制問題小委員会を傍聴していた流れから、親会である著作権分科会の 1/26 に開催された 第 35 回も傍聴し、非公式議事録もでっち上げた [URI] のでついでで感想も残しておきます。

今回、議事が公開されていた範囲では、法制問題小委員会の 第 6 回 で報告されたこと + 国際小委員会の審議結果報告という形で、主たる議題は国会図書館からの送信サービスに伴う権利制限規定の追加についてでした。

国会図書館からの件については、一部権利者団体等から「絶版またはそれに準ずる理由により、市場での入手が困難な」という規定に関して懸念 [1 / 2 ] が表明されたぐらいで、さほど反対もなく分科会を通過 [URI] しました。

ただ、少し気になったのは経団連から参加している 広崎 委員の発言 [URI] に含まれていた、「どのジャンルにどんな頻度でアクセスしていたかという二次情報を活用できないか」という箇所です。昨今、話題になっているビューン等の件 [参考] を想起してしまい、少し心配になりました。国会図書館の中の方々が軽々しくこうした轍を踏んで図書館への信頼を失うようなことになって欲しくないなと思っています。

◇◆◇

図書館以外の議題に対しては、私的録音・録画補償金について [1 / 2]、保護期間について [1 / 2 / 3 / 4 / 5] と、まあ恒例の主張が行われていました。

◇◆◇

これらの主張を受けてかどうかは不明ですが、今期の著作権分科会で分科会長を務めた 土肥 一史 委員が、最後に異例の挨拶 [URI] を行っていました。この記事にもその発言を直接埋め込んでおくことにします。

私のお願いとしてはですね、やはりここにお出でになる委員の方々は、当然それぞれ属される団体から意見をこの場で主張するように、あるいはそういう各団体の考え方というものを反映されることでお出でになっておるのだろうと思います。

ですけれども、皆様方の長年に渡り涵養された経験なりご所見なり、様々な高度な知識・経験、そういう所に基づいても、やっぱりここにお出でになっているというふうに思っております。

単にそれぞれの団体の意見を強く主張されるという訳ではなくてですね、大所高所に立って、いわゆる著作権法 1 条が目的としております所の「文化的な所産の利用に意を図りつつ、著作者の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」この 1 条の規定の文言はなかなか素晴らしいなと思うのですけれども、この「文化の発展」に如何に寄与していくかというところを是非とも考えていただければと。

著作権法 1 条の「文化の発展に寄与する」という箇所は、これまで文化庁のパブコメ等に意見を応募する際に便利に利用させてもらっていた文なので、そうした点を分科会長が取り上げたことを素直に喜ぶことにして、「二重思考 [wikipedia] の修行が足りませんな、真理省から蒸気化させられてしまうかもしれませんぞ」とか「山田 奨治『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』[amazon] でも読んだのかなぁ」といったネジくれた感想は控えめにしておくことにします。


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