今年度の法制問題小委員会は著作権法 第30条 (私的複製) の問題を集中して取り上げるらしいので、これは一般個人としても重要だよねという訳で一昨日 7/4 にいそいそと傍聴しに行き、twitter で実況したあげくメモと記憶等を頼りに非公式議事録 [URI] まででっちあげてしまいました。資料はまだ文化庁サイトに上がっていないようですが、いちおう スキャン結果 PDF を非公式議事録からリンクしておいたので各発表の詳細を知りたい場合はご参照ください。
さて、今年度の法制問題少委員会が私的複製を取り上げることになった原因ですが、本年度 第一回 (5/11) での上野委員の問題提起がその一因として大きかったのだろうと考えています。第一回の議事録は既に文化庁サイトに上がっている [URI] のでそちらから引用しておこうと思います。
例えば,30条1項はたしかに私的使用目的の複製を原則として許容しているわけでありますけれども,1項柱書きで「その使用する者が」と規定しておりまして,私的使用者みずから複製行為を行うことを要求しております。このことから,いくら私的使用目的であっても,他者に複製を委託することは認められないと言われているわけであります。
これは,複製業者に委託してコピーさせることは私的複製として認めないという考え方に基づいているわけですけれども,このような考えに従いますと,例えば,古いSPレコードが自宅にたくさんあって今は再生できないという場合であっても,その著作権や著作隣接権が存続している限り,SPレコードのプレイヤーと複製機器を持っている他人やお店に頼んでCDにコピー(メディア変換)してもらうといったことは許されないということになりかねません。この点をどう評価するかが問題になろうかと思います。
また,30条1項1号は,「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」を用いる場合を権利制限から除外しております。すなわち,街などで一般の人が使用できるようになっている自動複製機器を用いる場合は,たとえ私的使用目的の複製であっても許されないとされているわけであります。
最近では,電子出版に関連しまして,いわゆる「自炊」と呼ばれる書籍の電子化が問題になっているところでありまして,自炊を代行するサービスですとか,客がみずから自炊するための機器を使用させるサービスなどが登場しているようであります。そうしたことから,このようなサービスを法的にみてどのように評価すべきかということが問題となりますが,それとともに現状の30条が現状に適合しているといえるのか,その基準の是非が課題になっているのではないかと思います。
もちろん,30条1項1号に関しましては,著作権法に附則5条の2という経過措置が定められておりますので,「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」でありましても,「専ら文書又は図画の複製に供するもの」につきましては,「当分の間」これを除外することになっております。
したがいまして,例えばコンビニに設置されているコピー機も,あれは「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」には当たるわけでありますけれども,これを用いて私的複製することは,現状では著作権侵害にならないわけであります。
しかし,附則5条の2という規定は,「当分の間」という文言からも明らかなように,あくまで暫定措置として設けられた規定とされております。こうした「当分の間」という文言を持つ経過規定は,ほかにも,例えば,適法録音物の再生について演奏権の対象から除外する附則14条や,貸本業について貸与権の対象から除外する附則4条の2など,かつては我が国著作権法にいくつか存在したわけでありますけれども,その後,次々と削除されまして,現状ではこの附則5条の2を残すのみとなっております。
この附則5条の2は昭和59年改正によって設けられて以来,「当分の間」のはずが25年以上にわたって残っているわけでありますけれども,仮に将来これを削除しますと,先ほどのようなコンビニのコピー機を用いた私的複製が許されないということになるわけであります。そうしますと,それで本当によいのかどうか。とりわけデジタル時代におきましては,コピーというのは自動複製機器でなされるのが一般的なわけであります。そのような現代におきましても,「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」を用いた私的複製を一律に認めない30条1項1号の規定は,そのままの状態で現状に適合しているといえるのか,といったことが課題になろうかと思います。
下線部は重要と私が判断したところを強調するために引いたもので、第一回を傍聴しながらいちいち尤もとうなづきたくなったところです。そんなこんなで、関係者団体からのヒアリングの機会をということで設けられたのが 7/4 開催の第二回と、明日 7/7 日開催の第三回という訳です。一応明日も傍聴は申し込み済みなので、コレと同程度の作業をする予定でいます。
前置きはこれぐらいにして、今回の関係者団体プレゼンと委員の質疑および意見交換の感想に入ります。今回用意されたヒアリング対象団体は JASRAC, 芸団協/CPRA, 写真家協会/芸術家連盟, JEITA, 経団連, 日本知的財産協会で、この順に意見発表が行われました。
JASRAC および芸団協/CPRA からの意見は、私的録音補償金を何とかしてくれというのがメインで例によって例のごとくという内容だったのですが、JASRAC の北田オブザーバの発表中に Amazon マーケットプレースを取り上げて中古販売があるのだから私的録音補償金をと訴えているのが非常に嫌な感じでした。中古ゲームソフト販売訴訟での最高裁判決をどー考えているのだろうと正気を疑いたくなったりします。
ネット配信等の音楽の著作物を「利用」する場合、PC からポータブルプレイヤーへの私的複製ができなければそもそも「通常に利用」することすらできなくなってしまう訳なのですが……彼らが考えている「音楽の著作物の通常の利用」というのは……きっと CD を棚に飾っておくことしか指さないのでしょうね。実に音楽に対する愛に溢れた、文化の発展を重んじる姿勢だと感じ入ります。
で、写真家協会/芸術家連盟からの発表ではデジカメ・スキャナ・プリンター・コピー機に補償金をといった内容のものだったのですが……そもそもプリンターを自分で作成して自分が著作権を持つ文書の印刷にしか使わない人が大半だと思うのですが、機器の進歩で精緻な複製が可能になっているからと補償金の導入を主張されても……正直正気を疑いそうになりました。
質疑応答の段階で、山本(た)委員から「補償金の分配をどう考えているのか」という質問と、「コピーしない人とコピーする人との間の公平性をどう確保するのか」という二つの質問 [URI] があったのですが、分配に関してはごにょごにょという形で「団体として個人の権利を守っていくために使う」という趣旨でしたし不公平に関しても「広く薄くだからいいでしょ」という趣旨の回答 [URI] で……ああ、録音・録画補償金の問題がなぜ紛糾したのか何も理解していないのだなという感想を持ちました。
JEITA からの意見は「自動複製機器の公衆への提供を合法化しろ」「事業者の介在する私的複製を (メディアシフト等で) 認めろ」という趣旨 [URI] でそこまで全面戦争をしかけていいのかなと思うほどだったのですが、まあ現在の主張の内容を見る限りではユーザにとって不利益となる内容ではないので応援しておくかと思いました。
JEITA の発表は質疑応答の際に松田委員から「メディアシフトの例にあげているものが適切でないのでは」という趣旨の指摘 [URI] を受けているのですが、JEITA 側の資料 [URI] を読む限りでは、松田委員が主張するとおりの例である「他人の著作物であるアナログ放送を録画した VHS テープ」と書いてあるので……昨年の権利制限一般規定がらみの議論が染み付いてて写りこみの問題と早合点してしまったのかなと思いました。
経団連からの意見は……私的複製となにも関係がないのではないかという内容で、正直浮いていました。新たに導入することを提案していた制度にしても現行著作権法の上で契約を結べば解決する問題で、必要性が謎だなと思いました。
質疑応答の段階で、松田委員から「30条に対象を絞って、流通促進は議論の対象外にしては」という趣旨の発言 [URI] が出たほどなので、今後の議論で考慮される可能性は低いのじゃないかなと予想しています。
最後に知的財産協会 (yahoo が会員らしい) からの発表は、JEITA 意見を少しマイルドにしたような内容で、JEITA ほど強行ではないものの「メディアシフトの事業者の実施を認めてもよいのでは」という意見や「自動複製機器の公衆への提供について、一律禁止が適切かどうか議論してみては」という意見を発表していました。[URI]
質疑および意見交換の段階での発言をもう少し詳しく見てみると、松田委員の問題提起 [URI] が重要かなと感じました。twitter での実況の際は私の要約が悪かったために松田委員が「私的複製に第三者が関与することの是非」について現状維持的であるような印象を与えたかもしれませんが、発言全体を追ってみれば判るように「この問題について影響範囲や想定される悪影響等について腰をすえて議論しよう」という趣旨の発言なので、むしろこの問題については積極的と評価したほうがよいのではないかと考えています。
少し気になった点として、土肥主査が JEITA/知的財産協会 共に、1項3号 (ダウンロード違法化) については「もう少し法改定の効果を見極めるべき」という意見だったにも関わらず、「1項3号について萎縮効果は現れているのか、オレオレ詐欺のような懸念は出現してるのか」[URI] と過敏に反応しているようだったので……何か後ろめたいことでもあったのかなぁと心配になってしまいました。
前回に引き続き、文化審議会 法制問題小委員会の傍聴記です。第三回の非公式議事録 [URI] の作成が終わったので感想を残しておくのが今回の目的です。
前回に引き続き今回も関係団体からのヒアリングということで、ヒアリング対象は 日本レコード協会 (RIAJ) / 日本映画製作者連盟 (MPAJ) / 日本映像ソフト協会 (JVA) / コンピュータソフトウェア著作権協会 (ACCS) / 日本文藝家協会 / 日本書籍出版協会 / 日本雑誌協会 / インターネットユーザ協会 (MiAU) / モバイル・コンテンツ・フォーラム (MCF) と 9 団体で……前回のヒアリング対象と合算してみると、権利者団体が 11 団体、機器メーカが 1 団体、ネット企業団体が 2 団体、財界団体が 1 団体、ユーザ団体が 1 団体という構成です。
一見ヒアリング対象に偏りがあるような気もするかもしれませんが、マジコン規制を導入するための昨年度の法制問題小委員会ではユーザ団体からのヒアリングが 0 団体だったことを考えれば、∞倍にユーザの意見を聞き入れようという姿勢が示されている訳で、比較にならないほどの進歩と言う事ができるでしょう。
今回のヒアリングでの発表意見のうち、日本レコード協会コンピュータソフトウェア著作権協会といった、法制問題小委員会の常連団体からの意見はいつも通りの内容だったのですが、レコード協会の意見のなかで面白いものがあったので、そこだけは直接埋め込んで紹介しておきます。ダウンロード違法化について、刑事罰化を求める際に次の理由付けをしていました。
先ほど 2010 年に当協会が行いましたユーザ調査、その一環でグループインタビューを実施しました。これは中学生女子・高校生女子・20代社会人など三グループに分けましてグループインタビューを実施しました。
テーマとしては動画配信の利用実態、有料・無料の使い分け、あるいは音楽にお金を使う事に対する意識、そういったものをヒアリングする為に行ったものでございますけれども、特に10代20代のグループからは、そこの資料1-1の2ページ中段でご紹介するような大変衝撃的な意見・発言がでております。
「やはり、タダで手に入る違法ダウンロードはやめられない」と「皆がやっている中で、自分だけが罰を受けることは考えられない」というような発言がございました。
つまり法改正後の 2010 年調査で判ったことは、法改正の趣旨というのは相当認知されているに関わらず、違法としたことによる抑止効果は十分に発揮されていないと当協会では考えております。
これを放置することは違法行為を行う若年層の犯罪者を増やすということに繋がるのではないかという危機感をもっています。
さて、ダウンロード違法化の導入方針が決定した際に私が書いていた [URI] 内容を再掲しておきます。
あーつまりアレですね、著作権法に書いてあることを守らなくても、処罰されることはありませんよと、法律を守らなくてもだれも咎めませんよという例をもうひとつ追加して、若年層から遵法意識を削いでいこうというわけですね。そういう意味では非常に効果的な、実に目的を達成するためにベストな選択肢だと称賛したいです。
えー日本レコード協会さんから私の予言が的中したとお墨付きをいただけた訳ですが、予言があたってもうれしくないことってあるんですね。
他にもう一つ、日本映像ソフト協会さんの次の意見が気になりました。
この AACS 等のライセンス契約を無効化するような権利制限の導入というものは避けて、是非是非、それらの権利制限規定が導入されますと、折角パッケージソフトについての私的録画問題が解決に向かったなというふうに思っていたところですが、またこれが振り出しに戻ってしまうというふうになりますのでよろしくお願いします。
パッケージソフトの私的録画の問題につきましては、是非、その他の権利制限も含めてやっていただきたいと考えております。
この意見を翻訳すると、現在、技術的保護手段を回避しての複製は私的複製に関してのみ違法という扱いになっているけれども、その他の権利制限(引用・相互運用性の確保・教育用利用・視覚障碍者/聴覚障碍者が利用するための変換)にも違法という扱いを拡大してほしいという意図となるわけで、それは「文化の発展に寄与する」ことという著作権法一条に適う内容なのかなと疑問を感じました。
昨年度の法制小委員会パブコメ [URI] の中で、私は次の意見を送っていたのですが……。
アクセスコントロールの機能を含む技術を規制するということは著作権者および著作物流通事業者に対して現行著作権法での権利制限規定を回避する手段を与えることに等しいことであることを承知した上で、慎重な検討が行われることを望む。
いやはや権利制限規定の回避どころでなく、正面から権利制限規定の無効化を (視覚障碍者/聴覚障碍者が利用するための変換すら含めて) 正面から求めてこようとは……彼らの面の皮の厚さを見誤っていたと痛感しました。
まだ他に書いておきたいこともあるのですが、長くなってきたので残りは明日書くことにします。
昨日の続きです。今日は出版系 (文藝家協会/書籍出版協会/雑誌協会) からの自炊対策ということで出されていた意見に関してとりあげてみます。彼らの主な要望は「附則 5条の2 を削除してほしい」でした。この附則 5条の2 というのは次のような条文です。
(自動複製機器についての経過措置)
第五条の二 著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。
この条文で指定している 第30条1項1号と、119条2項2号というのはそれぞれ次の条文です。
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
第百十九条 <略>
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
<略>
二 営利を目的として、第三十条第一項第一号に規定する自動複製機器を著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者
このように、本来は「公衆が利用可能な自動複製機器」を用いて行う私的複製は違法 (刑事罰なし) ですし、「自動複製機器を営利を目的として著作物の複製に使用させる」行為も違法 (5年以下の懲役・500万以下の罰金) なのですが、附則 5条の2 によって「当分の間」「文書・図画」の複製に使うものに限って違法ではないという扱いになっています。
出版系団体から出された意見は「附則 5条の2 を削除してほしい」ということなので、公衆が利用可能な自動複製機器での私的複製を違法として、さらに自動複製機器を営利を目的として著作物の複製に使用させる行為も違法にしてほしいという内容になります。
この主張が入れられた場合、コンビニや大学生協で図書館等で借りた本をコピーすることは違法となります。それ自体についても言いたいことはあるのですが、より問題なのは 119条2項2号 の「営利を目的として自動複製機器を著作物の複製に使用させた者」に対する罰則と考えています。
これが違法となった場合、積極的に著作物の複製に使用させた者だけでなく、「ひょっとしたら著作物の複製に使われるかもしれないなぁ」というレベルであっても「未必の故意」ということで有罪ということになるのでしょうから、コンビニ・生協等でセルフサービスのコピー機を提供することが懲役5年以下・罰金500万以下の刑事犯ということになります。また最近カメラ量販店店頭に置かれるようになったSDカード等から写真を焼ける機械を置くことも同様に刑事犯ということになります。
従って、コンビニ等でコピー機を提供しようとする場合、店員が複製元を確認して、著作物でない場合だけ店員がコピー機の操作をしてコピーを行う形でなければコピー機の提供はできないということになります。私にはそうした条件でコンビニにコピー機が置かれているということを想像できないので、彼らの主張の通りに 附則 5条の2 の削除のみが行われた場合、おそらくコンビニからはコピー機が消えることになるのだろうと予想しています。
出版物のコピーを防止する為に、自分で作成した文書のコピーや、友人から借りた講義ノートのコピーを、複製機器を私有できる人だけに制限することが文化の発展に寄与するのかなと疑問に感じながら、これらの意見を聞いていました。
上野委員の質問 [URI] は、流石にそれは問題だろうという前提で、附則 5条の2 の単純な削除ではなく、同時に補償金のような制度を導入してコンビニのコピー機を「著作権の侵害となる複製」ではなくすことを考えたものだったのでしょう。が、これはこれで別の問題があり「自分で作成した文書のコピー」から徴収された補償金は権利管理団体に分配され、言わば彼ら権利管理団体に盗まれることになります。
なるほど、私的複製は本来著作権者の権利である複製権を侵し、権利者の正当な権利である複製の対価を盗んでいるのかもしれません。しかし、私的複製がすなわち利用者の窃盗で罪であり、権利の及ばないものから補償金を徴収すること、同様に評価をすれば権利管理団体の詐取が罪ではないということなのだとすれば、私には同意できません。
コピー機の場合 DVD/MD メディアと異なり自分で作成した文書の割合が少なくとも 20% を超えるでしょうから問題はより深刻になります。デジカメプリント機の場合は自分で撮影したデータの場合が 90% を超えるでしょうからそこから補償金を徴収するなど論外に思えるのですが……第二回の写真家協会/芸術家連盟の意見 [URI] を聞く限りではそこからも補償金を取る気でいっぱいのようです。
委員の先生方はそうした意見に安易に流されることがないように期待したいのですが、昨年までの法制問題小委員会の審議状況を見る限りではあまり期待できそうにないのかなとも思っています。
本題 (自炊の話題) に入る前に長くなりすぎたので、残りは明日以降に回すことにします。
昨日の続きです。今回は自炊(書籍電子化)についての意見と質疑についてを取り上げるつもりでいます。前回とりあげた「附則 5条の2 を削除してほしい」という意見は、自炊が問題なのでそれに対抗するためということらしいのですが、発表意見と質疑を聞く限りでは自炊の様態に応じて問題の深刻度が異なると考えているようなので、次の表にまとめてみました。
様態 | 意見 |
購入者本人による電子化 | 問題ではない。 ただし、電子化データが(故意又は不注意で)流出する可能性があるので可能ならば止めさせたい。 自炊後の断裁済み書籍が中古市場で流通することは許せない |
自炊機材の提供サービス | 問題なので止めさせたい。 特に、書籍・雑誌を販売している店舗でそれらのサービスが提供されることは許せない。 |
事業者に委託しての電子化 | 現行著作権法上は違法なはずなので、止めさせたい。 借りた書籍・中古購入書籍の電子化の委託が可能になるので問題である。 電子化データの管理状態(故意・又は不注意での流出)が不安で問題である。 私的複製に手足理論が持ち込まれると、ずぶずぶになって全てが可能になってしまうのが問題である。 |
自炊機材提供サービス 断裁済み書籍貸与付 |
絶対に許容できない。 |
個人的には、断裁済み書籍の中古流通を止めたいという思いと、自炊の森に代表される断裁済み書籍貸与付自炊機材提供スペースを止めたいという思いには同意できるのですが、本人が電子化する場合については許容しつつ、事業者に委託して電子化するのが許容できないとする彼らのスタンスは何故なのだろうと謎に感じていました。
法制問題小委員会の委員は法学者か弁護士を生業としている方々ばかりなのですが、法律関係の書籍というのは大抵かさばるものなので、委員本人又は同僚で自炊をしている人も多いのでしょう。自身にも関わることなので非常に突っ込んだ質問 [1 2 3 4 5 6 7 8 9] が行われていて、そこで出た回答から拾えた懸念点等を上の表の中に入れてみたのですが、それでもやっぱり理解できずにいます。
現状では断裁してページをばらす以外に書籍を電子化する方法はないので、断裁済み書籍の流通(中古販売・貸与)を止めることができれば、電子化データの流出以外の懸念は全て解消可能で、電子化データの流出に関しては中山信弘委員が再三指摘しているように、本人が行う電子化(本来の意味での自炊)にもつきまとう問題ですから、本人による電子化を許容しつつ、事業者による電子化を許容しないのは筋が通らないように思えます。
で、彼らが最大の問題として挙げていた自炊の森に関しても、カラオケ法理を援用して、「(自炊の森は)無償貸与であると主張しているが、これらの貸与書籍がなければ自炊機材の利用に対して利用者が料金を支払うことはなかったであろうから、実質的に有償貸与である」とか主張して貸与使用量を支払えという形の訴訟を起こしてもいいでしょうし、あるいは、断裁済み書籍を貸与する行為が「同一性保持権の侵害にあたるので、差し止め請求と損害賠償請求を行う」という形の訴訟を起こすこともできるでしょう。
今打てる手があるのに、なぜそれらの権利行使をサボってる人の為に「附則 5条の2 の削除」とかの希望を聞き入れてあげなきゃいけないのだろう? 弊害がないならともかく、コンビニのコピー機が消滅するとか一般国民に与える影響が大きいのにというのが私の思いだったりします。
まあ書籍という形態(デザイン・装丁)は、これまで一般に著作権が主張されてなかった出版社・編集者・デザイナーの仕事の領域だったりするので、色々と面倒な議論が発生する可能性はありますが、それでも著作財産権に関する主張ではなく著作人格権に関する主張なので、損害賠償が認められるかどうかは兎も角、地裁レベルでは差し止め請求を認める判決が出そうに思えるんですよね。
私が、事業者の介在する書籍電子化を認めてもいいのじゃないのというスタンスなのは、実際に自炊してみてその面倒くささと、品質に関する不満足を痛感しているからだったりします。
書棚が上の写真のような現状で、そこから溢れた本が平積みになってるような人間としては……。
とりあえず完結したシリーズから PDF にしていってみたものの……。
傾き補正の精度や見開きページの連続性等納得のいかないところが多くて作業が停滞していたりします。(なので書棚に「ッポイ!」26巻以降がまだ残っている訳です)
東京近郊に居住する人として例外ではなく住宅内の空間がもっとも高価なリソースなので、正直、紙の書籍と同等の利便性 (機器を選ばないこと、閲覧期限等がないこと) を満たす電子書籍があればわざわざ自炊などせずにそちらを購入するつもりで一杯なのですが…… DRM フリーでの電子書籍が一般になる様子が見えないので仕方がなく、私は自炊をはじめています。
出版社の人達が、電子書籍というのは紙の書籍では有限の本棚しか持てなかった貧乏人に対して、無限の本棚を与え、住宅費用をより書籍に注ぎ込めるようにすることなのだと、何時になったら気づいてくれるのだろうかと待ち続けているのですが、当分気がついてくれそうにないのを悲しいと思っています。
法制問題小委員会での、映像ソフト協会の発表を聞きながら、そう言えば今年の 3月に恒例 [1 2 3] のネタをやるのを忘れていたなと思いだしたので、実践・統計データでの嘘の吐き方講座の今年分を記載します。
この図は映像ソフト協会の発表している統計データから年度別の総売上額を縦軸として億円の単位でグラフ化したものです。色を変えている二つの年は、赤が中古ゲームソフト販売訴訟に対して最高裁で「一般向けに販売される映画の著作物の頒布権は初回販売時に消尽する」という判決が確定し、それまでは自粛されていた映画 DVD 等の中古販売が大っぴらに行われるようになった年で、青が全てのデジタル放送に対して無料広告放送にコピー・ワンスが導入され、家庭内での複製に制限が行われた年です。
この、無料広告放送の複製制御という仕組みは、ダビング10の導入が話し合われていた総務省のデジコン委の席上で権利者団体代表委員が、権利者への対価の還元・リスペクトに必須のものと主張していたものです。当然目覚ましい効果が上がっているのだろうと思うかもしれませんが、導入以来物理メディアのマーケットは縮小を続けています。グラフを見る限りではそろそろ下げ止まりが見え始めてるようなので 2011年は上昇に転じるかなと思ったりもしたのですが、3 月の震災とその後の自粛ムードの影響でまた下落を続けるのかもと私は予想しています。
このデータで明らかなように、無料広告放送へのコピー制御導入はマーケットの縮小という形で、権利者への対価の還元・リスペクトに素晴らしい影響を与えています。
ここまでは恒例の冗談です。自分の主張に都合の良いデータのみを抽出することで統計を使って嘘を吐くことが可能であるという実践例です。この記事を読んでいる方はこうした手法に騙されないようにしましょう。
というわけで、自分の主張に都合の悪いデータも出します。放送系コンテンツ 4 種 (国内ドラマ・国内アニメ・国内子供向け・芸能/趣味/教養) のみの積み上げグラフを同様に描くと次のようになります。
2005年以降、放送系コンテンツの主力である国内アニメ(一般・子供向け合算)が減少を続けていましたが、2010年は 4 年ぶりに増加に転じ、他、芸能/趣味/教養も反発したので、その影響で放送系コンテンツ総合での売上高も 2009 年が 1069.2 億に対して 2010 年が 1112.8 億と増加しました。
……この原因を「PT1・PT2 の普及に伴って PC 録画環境が整えられ、メディア接触機会が増加して購入意欲が高まったため」とか適当な解釈をでっちあげることもできるのですが、それは流石に「北京で蝶が羽ばたけばNYで嵐が起きる」に近い主張になってしまうので寸前で思いとどまりました。
このように放送系コンテンツの売上が増加しているに関わらず、トータルの売上が減少しているのは国内映画・海外映画・海外ドラマがそれ以上に下落している為です。
海外ドラマと海外映画の合算で売上は 810 億ということなので、まだ国内アニメ 759 億を超えていますが、ひょっとしら 2011 年には逆転したりすることもあるのかもと考えています。国内ドラマは相変わらず 200 億未満と国内アニメの 1/4 程度にとどまっているので……制作に投じられた金額に見合うところまでマーケットが広がってもいいと思うのですがなかなか難しいようですね。
以前これらの売上比率について取り上げて、国内ドラマは売り方が下手なんじゃないのかと書いたことがある [URI] のですが、未だに状況に変化が見られないところから考えると、この差はコンテンツの質と国民への受容度の差を表わしているのかもしれませんね。つまり、ドラマよりもアニメの方が国民からリスペクトを受けている質の高いコンテンツで、日本は国民の大半がドラマよりもアニメに金を投じるべきと判断するアニヲタな変態国家だということです。