本当は 8 月中に別のことで戯言を更新しておこうとか思っていたのですが、気が付けが 9 月も終わり間近で、法制問題小委員会の第四回が (9/21 に) 開催されてしまいました。第二回・第三回と同様に非公式議事録 [URI] をでっちあげたのでリンクを張って感想を残しておきます。
今回は 30 条 (私的複製) に関しての議論はさほどなく「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」がまとめた「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」についての意見交換が大半 (3/4) を占めていました。
当日傍聴をするまでは、書籍電子化代行業に対する出版社・著作者の質問状の件や議員立法によるダウンロード違法化問題とかを少しは取り上げるのだろうと思っていたのですが、一言も取り上げられなかったのはある意味予想外でした。
さて、今回のメイン議題だった国会図書館から公共図書館への電子化データ送信の件ですが、配布資料と事務局の説明を聞く限りでは次のような内容でした。
上記は短期間で実現可能なとりあえずの第一段階という扱いで、将来的には家庭からの全文検索を可能としたり、家庭にからも本文の閲覧を可能とする形としたいという将来像も示されているのですが、今回、法制問題小委員会に付託されているのは上記項目に限定されているように思えました。
この形態は、絶版図書のみで、しかも閲覧のみで一部プリントアウトすら許容しないという、利用方法や対象図書にかなりの制限が加えられたものとなっていますが、「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」では国会図書館のデジタル化資料を館外に配信するにあたっては権利者等の反対意見が根強く、ここまで制限した形でなければ検討会議での合意が取れなかったためにこうなったという背景が存在します。
実際、著作権法 31 条 (図書館における複製) を見てみると……。
第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
二 図書館資料の保存のため必要がある場合
三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合
2 前項各号に掲げる場合のほか、国立国会図書館においては、図書館資料の原本を公衆の利用に供することによるその滅失、損傷又は汚損を避けるため、当該原本に代えて公衆の利用に供するための電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第三十三条の二第四項において同じ。)を作成する場合には、必要と認められる限度において、当該図書館資料に係る著作物を記録媒体に記録することができる。
となっていて、電子データとしての送信ではなく、物理的な複製物であれば 1項3号によって「絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物」を他の図書館に提供することが可能であり、そうして提供された図書館資料は1項1号によって「利用者の求めに応じて一部を複製することができる」のに対して、電子データの場合は館内での閲覧しかできない訳ですから物理的複製物よりも電子データの方が利用者の利便性は大きく低下する訳です。
今回の法制問題小委員会では、付託された範囲を逸脱して、「一部プリントアウトを認める形で再検討を」という方針と [URI] なったようなのですが……。図書館利用者である一国民として「プリントアウトができるようになって利便性が向上する」と素直に喜べる内容ではないのが悲しいところだったりします。
というのは、検討会議まとめに従って、プリントアウトを認めない形であれば、権利制限規定の条文を考えるだけで済み、遅くとも今年度中には著作権法改定案という形でまとまったであろうものが、プリントアウトを認めるという形に変更する場合、議論の紛糾が容易に予想でき、実際に国会図書館所蔵の絶版書籍を地方公共図書館で閲覧可能になる時期が遅くなってしまうからです。
また、現状の権利制限規定に従った物理的な複製であれば、補償金等は特に発生しないのに対して、電子データの配信では松田委員の意見 [URI] に見られるように「一部でもプリントアウトは権利者の利益を害するから権利集中管理機構と補償金制度をセットで」ということで補償金制度をこの機会にねじ込もうとしている姿勢が伺えます。
正直、一部コピーが必要であれば、館内で閲覧した上で、国会図書館からの郵送での一部複製を申し込んでも良いわけで、そういう意味では松田委員の「国会図書館に行かなければ一部複製ができず、知の地域間格差は解決しない」というのは事実誤認であろうと思うのですが、郵送一部複製申し込みで解決可能な一部プリントアウトと引き換えに補償金制度を入れられてしまい、しかも利用可能になるまでの時間は(協議等で伸びて)更に遅れていくというのは利用者にとってはまったくありがたいことではありません。
その辺、やっぱり松田委員はどれだけ言葉を飾っていたとしても権利者よりなんだよなぁという評価になってしまう訳なのです……。
ここからは余談になります。道垣内委員の発言を見ると、一回目 [URI] と二回目 [URI] 三回目 [URI] では Google Booksearch や Amazon Kindle が入ってこないようにできないかと言おうとしているかのような発言だったのが、上野委員の発言 [URI] を聞いた後の四回目の発言 [URI] では、自分が海外の研究機関に赴任するときのことを想像したのか、くるっと主張がひっくりかえって「閉じずに広げる形で」ですからねぇ。なんつーか露骨だよなぁと。
もーちょっと一貫性のある主張をされる人の方が利害の対立する相手にしても好ましいと私は思ったりします。