Marumo ISDB Splitter ver. 0.1.0 を公開しました。ダウンロードは [URI] から可能です。このソフトウェアは……
【名称】
Marumo ISDB Splitter
【機能】
日本のデジタルテレビ放送に採用されている ISDB 形式の MPEG-2 TS ファイルの再生に対応した DirectShow フィルタです。
実際に qonoha 等で利用するには MPEG-2 VIDEO に対応したデコーダフィルタと MPEG-2 AAC-LC AUDIO に対応したデコーダフィルタが必要です。
【注意事項】
公開版のこのソフトウェアでは MULTI2 でスクランブルされた TS ファイルは再生できません。
有料放送が無料解放期間に放送しているデータや、無料枠で放送しているデータを録画したファイルに対して利用してください。
というようなソフトウェアです。
公開版では MULTI2 の復号機能を削除していますが、手元の非公開版では MULIT2 復号機能が有効なフィルタを利用して、PT1 録画鯖で記録した MULTI2 未復号データも視聴できるようになりました。
これまで 10 月からの新番組を一つも見ることができず悲しい思いをしていたのですが、これでようやくテレビが見られるようになります。
11 月 3 日、「文化の日」という記念すべき日に、著作権法 第1条に謳われる「文化の発展」した社会を体現するような発表ができて、大変よろこばしく感じています。
え? MULIT2 復号版の公開予定? ないですよそんなもの。著作権法で「回避機能を持ったプログラム」の公衆への譲渡等は禁じられているじゃないですか。
自分でプログラムを作れる人しか録画鯖を作れないし運用できないようにして、大衆にプログラミングスキルを身につけさせるのが 2012 年改定著作権法が目指していた「文化の発展」した社会なんでしょ?
そんな「文化の発展」の妨げになるようなことを私がする訳がないじゃないですか。
リリース予定日に間に合わせるための突貫工事が祟ったようで、昨日リリースした Marumo ISDB Splitter ver. 0.1.0 はシーク時に異常動作をすることがありました。
まだ完全に不具合を潰しきった自信がある訳ではありませんが、明らかなバグの類を潰した更新版の ver. 0.1.1 を用意しました。[URI] からダウンロード可能です。
このバージョンでの修正ポイントは以下の通りです。
手元環境ではものすごく低頻度で発生するデッドロックバグがまだ潰せていないのですが、昨日リリースしたコードにあまりにも酷過ぎるバグが含まれていたので、潰せたバグだけの分でもリリースすることにしました。
使っていただいている方々にはご迷惑をおかけしています。バグレポートには大変感謝をしてます。
日刊状態で申し訳ありませんが、昨日の ver. 0.1.1 にも主に音声処理周りで色々とバグが残っていたので、再修正版となる ver. 0.1.2 を公開します。ダウンロードは [URI] からどうぞ。
今回の修正点は以下の通りです。
最初の EMM 処理の際にアクセス違反で死んでいたバグに関しては、BS アニマックス/WOWOW 等の有料放送局の番組を再生していた場合に必ず発生していた問題です。昨日が偶然無料開放日だったおかげで検証用素材がすぐに手に入ったおかげで修正が捗りました。
二番目のシーク時の安定性向上は、音声デコードに LAVAudio.ax を使っている場合にシーク時に落ちる現象に対する対策です。他にもシーク時にシークが発生しないことがある等の現象の修正にもなっています。
手元環境ではこのバージョンでほぼ安定した状態となっています。ver. 0.1.2 で何か不具合が起きた場合、再生時の放送局・番組と使っているデコーダフィルタ・レンダラを教えていただけると原因特定と解決までの時間が短くなるのでよろしくお願いします。
11/3 の最初の時点から、このバージョンで公開できれば良かったのですが……言い訳は良くないですね。
ストリーム選択機能等を追加した Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.0 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。
今回の修正点は以下の通りです。
本バージョンから、一部対応アプリ (動作確認をしたのは MPC-HC だけですが) では次の画像のような形でサービス&音声選択が可能となっています。
MPC-HC では画像のような形で右クリックメニューからストリーム名が見える形で選択可能なのですが、残念なことに他のメディアプレイヤーソフトではこのような形でのストリーム選択は利用不可能なようです。
私が常用しているのは Qonoha なのですが、こちらはストリーム名をフィルタに問い合わせてくれないため、ストリームが選択可能な場合であっても「ストリーム 1 / ストリーム 2 ……」という無機質な表示になります。さらに、フィルタグラフ構築直後のストリーム数が 1 だった場合、それ以降ストリーム情報の問い合わせを行わないので、前番組(単一音声)をマージンとして含む形で録画した場合、音声切り替えが行えません。
当初はこうしたプレイヤーソフトでもストリーム切り替えが可能なように、独自に(ffdshow のように)フィルタのプロパティページを用意して、そちらからストリーム切り替えを可能にしようかと考えていたのですが、その実現はかな〜り大変そう(下手すると 1 月かかりそう) だったので、とりあえず現状版を ver. 0.2.0 として公開することにしました。
独自プロパティページを実現できたら、ver. 0.3.0 としてリリースする予定でいます。
可能であれば、デュアルモノラルの分離&選択も実現したかったのですが、仕様を調べてみたところ、AAC デコーダを半分作る覚悟がなければ実現不能だということが判ったため、当面の実装予定からは削除しています。
Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.2 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。
バージョン番号の進め方で想像された方もいるかもしれませんが、今回の変更はバグ修正のみです。
ver. 0.2.0 に対して 2ch / twitter 等で見かけた不具合報告のうち、手元で再現できたものに対して修正を行いました。
2ch に書き込まれていた不具合のうち、「世界のドキュメンタリ」を保存したものを再生すると例外を出して死ぬというものが気になっているのですが、昨晩 NHK BS-1 で放映されていた「ケネディの残光 宿命の子供たち(前)」は手元環境では ffdshow / Microsoft DTV-DVD / LAV Filters / PowerDVD (9/10) で問題なく再生できているので、何が原因か判らず手をつけられずにいます。
この記事を読んでいる方で、同様の症状が出ている方がいたら、利用している映像/音声デコードフィルタの名前とバージョンを教えていただければと考えています。
Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.3 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。
昨日の修正でも修正漏れがあったので、再修正版です。このバージョンでの修正点は次の四つです。
バグ報告してくれた方々、皆に感謝しています。
15日の午前中から 22:10 にかけて、直接 junk から ver. 0.2.3 をダウンロードされた方、正式リリース版とは別バイナリになっていますので、再ダウンロードをお願いします。
正式リリース版では isdbsplitter.ax のバージョンリソースが 0.2.3.1 になっていますので、そこで見分けてください。
Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.4 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。
昨日の修正で一部エンバグしてしまっていたのでその修正になります。修正点は次の二点です。
バグ報告してくれた方、サンプル提供してくれた方に感謝しています。
TS 関連ソフトスレにも書きましたが、現状シークを PCR 基準でそれなりに行っているので、長めのファイル等で短距離シークを行うと、誤差が大きくなることがあります。
流石に、巻き戻しで後ろに飛ばされてしまうようなことは問題なので、対策を考えてみますが、ver. 0.2.4 にはまだその対策は入っていません。
言語コード (LCID) を返すのは…… ISO 639 の 3 文字コードと Windows の LCID [URI] で食い違いが大きいのであまり意味がありそうに思えない&全部日本語の CS 全サービス録画 TS でシュールなことになりそうという気がするのですが……一応次のバージョンで入れるように努力してみます。
Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.5 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。更新内容は次の通りです。
バグ報告&要望提案してくれた方々に感謝します。
最初のシーク時にオーディオストリームがデフォルトストリームに戻ってしまう問題は、ver. 0.2.0 からのバグでした。検証パターンから綺麗に抜け落ちていたので報告してくれた方に大変感謝しています。
二つ目の短距離シークの問題に関しては、なるべく処理構造を大きく変えずに済む範囲内で対処してみました。PCR 基準でのアバウトなシークというのは変わらないのですが、これまではストリームを 16 分割して PCR/オフセット を記録し、線形補間で内挿してシーク先の位置を求めていたのですが、このバージョンから最初に求めた 16 ポイントの PCR/オフセット だけでなく、現在位置の PCR/オフセットも利用して、方向が逆転してしまうことだけは避けるようにしてみました。
三番目はあまり効果がなかったものなのですが、これまでは非対応 TS の場合でも先頭 16M までは為念に読むようにしていたのですが、対応している映像ストリームが存在しないと判明した時点で処理を諦めるように変更しました。手元ではあまり効果がありませんでしたが、他の TS スプリッターフィルタにフォールバックするまでにかかる時間が短くなってくれたかもしれません。
四つ目の言語コードに関しては、ちょっと別扱いで詳細に言い訳をしておきます。2ch DTV 板の TS 関連ソフトスレッドで要望を見かけたので対応してはみましたが、次の制限があります。
まず最初に。デュアルモノラル音声のストリームでは、LCID として 0 (不明) を返します。つーか主音声=日本語/副音声=英語とかを表現できる LCID が Windows には存在しないので諦めてください。他にも「めだかボックス アブノーマル」 第一回の "etc=その他" とかの様に対応する LCID がない場合も言語コードは返しません。
次に、グラフ構築完了前 (映像/音声の先頭 PES パケットが完成するまで) に EIT が届いていれば、その言語コードが表示されますが、EIT 到着よりもグラフ完成の方が早かった場合、Qonoha 2.0.25 迄は最初の一度しか IAMStreamSelect::Info() の呼び出しを行ってくれないようなので、これまで同様に「ストリーム1」だけの無機的な表示となります。
また、言語コードが表示されたとしても、前番組の言語コードのまま更新されないということが普通に発生します。
このように制限事項が異常に多いので、Qonoha 側の対応が完了すればこの機能は削除するかもしれません。
Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.6 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。更新内容は次の通りです。
バグ報告&サンプル提供してくれた方々に感謝します。
アーカイブの readme.txt で【既知の不具合】に書きましたが、MPC-HC + LAV Video + madVR 環境で利用している場合、SD <-> HD 変更を含む(わかさのような)ストリームで、解像度変更後の部分を再生中に「停止」ボタンを押すと、稀に MPC-HC 「応答なし」状態になることがあります。
スプリッター側で対処できればなんとかしたかったのですが、外部から観察した限りでは madVR の問題のようで、スプリッター側からは何ともできそうになかったので、対処を行っていません。
問題の発生頻度はだいたい 5% 程度 (55 回の試行中 3 回「応答なし」が発生) で、MPC-HC ver. 1.6.5.6240 (x86) / LAV Video ver. 0.53.2 (x86) / madVR : 0.85 (x86) [いずれも公式バイナリ] で問題の発生を確認しています。
Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.7 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。更新内容は次の通りです。
バグ報告&要望提案してくださった方々に感謝します。
MPC-HC での追いかけ再生には対応できましたが、手元で Qonoha で調べてみた限りでは、ソースフィルタを Qonoha 内蔵のものから FileSouce (Async) に変更しても追いかけ再生は「再生できません」になってしまい対応できていません。
そもそもソースフィルタをグラフに登録してファイルを開く段階でエラーになっているような気配 (スプリッタへの入力ピンの問い合わせ自体が呼ばれていない) ので、Qonoha で追いかけ再生したい場合は Qonoha 側に要望を出してください。
Marumo ISDB Splitter ver. 0.2.8 を公開しました。ダウンロードは [URI] からどうぞ。更新内容は次の通りです。
バグ報告してくださった方に感謝します。また、ver. 0.2.7 リリース前の検証が不足していたため、複数回ダウンロードの手間を取らせてしまい申し訳ないと思っています。
来る 12 月 16 日 (日) に衆議院議員選挙と同時に、最高裁判所の裁判官国民審査も実施されます。前回の国民審査から今回の国民審査までの間に、IT 技術の進展に伴って国民の生活に深く影響するようになってきた著作権法関係で、最高裁判所において重要な判決が出ていますので投票の際の参考になるかと考えて各事件と関与した裁判官をまとめてみました。
須 藤 正 彦 |
千 葉 勝 美 |
横 田 尤 孝 |
白 木 勇 |
岡 部 喜 代 子 |
大 谷 剛 彦 |
寺 田 逸 郎 |
大 橋 正 春 |
山 浦 善 樹 |
小 貫 芳 信 |
|
まねき TV [平成21(受)653] |
○ | ○ | ||||||||
ロクラクII [平成21(受)788] |
○ | ○ | ||||||||
北朝鮮映画 [平成21(受)602] |
○ | ○ | ||||||||
Winny [平成21(あ)1900] |
○ | ○ | ○ |
Wikipedia の 2012 年 最高裁判所 裁判官 国民審査 [URI] によると、今回の国民審査対象裁判官は上の表にまとめた 10 名だそうです。「まねき TV」に関わっていた那須弘平判事と「ロクラクII」に関わっていた 宮川光治判事は退任済み、同様に「まねき TV」に関わっていた田原睦夫判事、「ロクラクII」に関わっていた金築誠志判事、櫻井龍子判事が国民審査対象外ということで非常に残念だったりするのですが、その辺のことはさておき、個々の事件の詳細を説明していきます。
略称 | まねき TV 事件 |
概要 | SONY 製の「ロケーションフリー」という、ベースステーション(通常は自宅に設置される)で受信可能な TV をネット経由で遠隔視聴可能なシステムを前提として、東京都内でベースステーションの設置場所を貸し出すサービスを提供していた「永野商店」に対して、テレビ局側が著作権(公衆送信権・公衆送信可能化権)侵害を理由にサービスの差止と損害賠償を求めた事件 |
知財高裁 判断 |
送信の主体を「ロケーションフリー」の所有者であり、ベースステーションに対して直接接続&送信要求を出している個々の利用者と判定。 また「ローケーションフリー」がベースステーションと登録済み子機との間での 1:1 通信機能しか持たないことから、公衆送信には当たらないと判断。 TV 局側の請求を棄却 |
最高裁 判断 |
送信の主体を「支配・管理下で、ロケーションフリーのベースステーションにアンテナ線を接続」した「永野商店」と判定。 各ベースステーションと子機の間に機器認証機能があろうとも、送信主体から見て個々の受信者(サービス契約者)は誰でも契約できる以上、公衆と判断。 ロケーションフリーでの遠隔視聴が公衆送信に当たるとして権利侵害を認める。 知財高裁判決を破棄して差し戻し。 |
裁判官 | 田原 睦夫 (裁判長) 那須 弘平 岡部 喜代子 大谷 剛彦 |
略称 | ロクラクII 事件 |
概要 | 日本デジタル家電が製造・販売している「ロクラクII」というネット経由で録画映像を送信可能な HDD レコーダを利用して、東京都内で「ロクラクII」の設置場所を貸し出すサービスを日本デジタル家電自身が提供していたところ、TV 局がそうしたサービスは著作権(複製権等)侵害であるという理由でサービスの差止と損害賠償を求めた事件 |
知財高裁 判断 |
複製の主体は個々の「ロクラクII」に録画の指示を出している「ロクラクII」の所有者であり、適法な私的複製であると判断。 TV 局側の請求を棄却 |
最高裁 判断 |
複製の主体は「管理・支配下」で「ロクラクII にアンテナ線を接続するという複製の実現に枢要な行為」を行った日本デジタル家電であると判断。 権利制限規定に該当しない違法な複製であると判断して権利侵害を認定。 知財高裁判決を破棄して差し戻し。 |
裁判官 | 金築 誠志 (裁判長) 宮川 光治 櫻井 龍子 横田 尤孝 白木 勇 |
まずは「まねきTV」と「ロクラクII」両事件から説明します。この二つの事件は良く似た事件で、東京キー局のテレビ番組を本来視聴可能でない地方や海外でも視聴可能にするという営業形態に対して TV 局側が著作権侵害を理由にサービスの差止と損害賠償を求めた事件です。
両事件の最高裁の判断については、これまでも折に触れて [1 / 2 / 3 / 4] 批判してきました。
また両事件に対する最高裁の判断は「結論を導くために使われた理論の射程はどこまで及ぶのか(本来適法であるべきレンタルサーバー事業やデータセンターサービスにまで及ぶのではないか)」や「規範的解釈(結論ありきで実状と異なる事実認定を行うこと)を広範に認めるのは、適法・違法の判断の予見可能性を低める」という観点から、文化庁の文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会の場で批判されています。
また、内閣府の知財本部の会合においても、クラウドサービスに対する委縮効果が大きいという観点から両事件の最高裁での判断は批判されています。
私は両事件の判決文は最低なものだと考えているので、これらの裁判に関わった裁判官に関しては無条件で×を付けることを決めていますが、この記事を読んだ方は、表内のリンクから直接判決文の本文を確認してみて、その中で示されている理屈に納得がいくかどうかをよく考えて国民審査に臨んでください。
略称 | 北朝鮮映画無許諾放送 事件 |
概要 | 北朝鮮で作成された映画の一部を国内 TV 局が無許諾で放送したことに対して、北朝鮮の朝鮮映画輸出入社および日本でその映画の独占利用権を取得していた会社が、TV 局に対して損害賠償を求めた事件 |
知財高裁 判断 |
北朝鮮の著作物は、日本が北朝鮮を国家として承認していないため、日本国内においては著作物として保護されないと判定。 無許諾放映に伴って、日本国内で独占利用権を取得していた会社が不利益を被ったことに対しての一般不法行為の成立を認め、12 万円の損害賠償を命じた。 |
最高裁 判断 |
北朝鮮の著作物は日本国内において著作物として保護されないという知財高裁の判定を踏襲。 日本国内での独占利用権を得ていた会社に対する損害賠償について、知財高裁の判定を破棄。 日本国内での独占利用権は著作権にもとづいて存在するものなので、元々の著作権が保護されない以上、独占利用権が損なわれても一般不法行為は成立しないと判定。 知財高裁で認められていた損害賠償を否定。 |
裁判官 | 櫻井 龍子 (裁判長) 宮川 光治 金築 誠志 横田 尤孝 白木 勇 |
この北朝鮮映画の無許諾利用については少し毛色が違うのですが、一応著作権関係なので紹介することにしました。
最高裁の判決文本文では事件の背景がつかみにくかったので、知財高裁の判決文 [平成20(ネ)10011] を読んでみたのですが……これは……著作物性については判断せず、著作権法 第32条(引用)で適法利用扱いにした方が問題が少なかったのではないかと思うのですが、被告(TV局)側でそれが主張できなかった何らかの理由があるんですかねと、そこが疑問に感じました。
外務省と文部科学省(文化庁)から「北朝鮮の著作物は著作物として保護しない」という見解が北朝鮮のベルヌ条約加盟の際に表明されているらしいので、裁判所としてはそれに従わざるを得なかったという事情は判るのですが、「国家として承認してないから著作物として認めないよー」というのはちょっとどうなのよというのが疑問点です。
著作権法は相互主義ということになっていたはずですので、北朝鮮に対して「日本の著作物を北朝鮮国内で著作物として保護しなくても文句を言いませんよ」というお墨付きを最高裁として与えたに等しい暴挙を行ったのか、それとも「北朝鮮の著作物は日本国内で保護しないけれど、日本の著作物は北朝鮮内で保護しろよ」というお粗末なジャイアニズム的倫理の保有者だと示したかったのか、いずれにしてもあまり支持する気が起こらない判決です。
ただし、知財高裁で認められていた一般不法行為の成立を認めず、著作権法上適法な利用であれば、民法 709 条の一般不法行為は成立しないとした部分に関しては最高裁の判断を全面的に支持します。
略称 | Winny 事件 |
概要 | P2P ファイル交換ソフトの開発および公開の継続が、著作権(公衆送信可能化権)侵害の幇助にあたるかどうかが争われた刑事事件 |
大阪高裁 判断 |
価値中立的なソフトウェアの開発・提供が「正犯の実行行為を容易たらしめ、幇助行為を行った」と言うには、ソフトウェアを違法の用途「のみ」に、あるいは「主要」に使用するように推奨していなければならないと判断。 Winny 開発者は Winny 公開の際に「違法なファイルの流通には利用しないでください」と注意書きを付与していたことから、違法な用途のみあるいは違法な用途を主要な目的として利用を推奨していたとは言えないと認定。 Winny 開発・提供が著作権侵害の幇助にはあたらないと判断。 |
最高裁 判断 |
大阪高裁が幇助の要件として判示した「違法の用途のみあるいは主要な用途としての利用を推奨」を否定。 ただし、インターネット上で利用者の意見を聞きながら迅速なソフトウェアの開発を進めるという方法は合理的なものであり、そうしたソフトウェア開発に過度の委縮効果を発生させないためにも、一般的な違法行為可能性の認識だけで幇助が成立するようなことがあってはならないと判断。 開発&提供者が具体的な違法行為を認識・認容し、かつ、ソフトウェアの入手をした者のうち例外と言えない範囲の者が違法行為に利用する蓋然性が高いと認められて、さらに、提供者も例外とは言えない範囲のものが違法行為へ利用することを認識・容認しながら提供を行ったときにはじめて「幇助」が成立すると判断。 Winny 開発者の著作権侵害幇助を否定。 |
裁判官 | 岡部 喜代子 (裁判長) 那須 弘平 田原 睦夫 大谷 剛彦 [Winny 開発者の幇助を認める反対意見を表明] 寺田 逸郎 |
こちらはネット上でも大変話題になった事件ですので、皆さんよくご承知かもしれません。上の表にまとめたように、最高裁の判決は大阪高裁の判決よりも、ソース公開ソフトウェアの開発者について「幇助」が成立する可能性が高まった内容となっています。
大阪高裁の判決では違法行為以外に使い道のないソフトウェアであったとしても「違法行為に使うな」と注意書きして配布していれば「幇助」の成立が否定されていたのですが、最高裁の判決では、価値中立的で違法行為以外に利用方法が多数あるソフトウェアであって「違法行為に使うな」という注意書きがあったとしても警察・検察が(昨今話題の自白強要等の手法で)「違法行為に利用されることを認識してました」「違法行為への利用が例外的でないことを認識してました」という内容の調書に指印押印&署名させることに成功さえすれば、幇助が成立するとなっています。
大阪高裁の基準は流石にゆる過ぎるように思えるのですが、最高裁の基準もどうなのかなと(個人的な経験・および PC なりすまし事件での冤罪被害者についての報道を読んでの判断では)思えるので、あまり支持することができません。
私の中での結論的な話を。すでに「まねきTV」「ロクラクII」両事件の感想で書きましたが、「横田 尤孝」「白木 勇」「岡部 喜代子」「大谷 剛彦」の四名については「×」を付けることが私の中では決定しています。特に「大谷 剛彦」に関しては「Winny事件」でも「幇助が成立する」と一人反対意見を表明されている方なので、悩まずに済んで助かります。
「Winny 事件」のみに関わっている「寺田 逸郎」ですが、最高裁判決をあまり支持する気にはなれないものの、結論(Winny 開発・提供者の幇助成立を否定)の妥当性と、Winny 事件判決だけで「×」を付けたくなるほど酷い判決ではないという点から、この方に関しては「×」を付けない予定でいます。
この記事を読んでいる皆さんも、折角の機会ですので、自分なりに興味をもった最高裁判決に関して調べて、自分なりの結論を出してから最高裁判所 裁判官 国民審査に臨んでください。