本記事は、社会的影響を鑑み削除しました。詳細は「おわび」を御覧ください。
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タイトルに「本当は怖い」をつけようかとも思ったのですけれども、今日書く内容に限ればそんなに怖い話でもないので、付けないことにしました。
数日前に、twitter に次の内容を書きこみました。[URI]
う、dececm をランダムモードで回しているという書き込みをみつけてしまった。ソース確認不能なので実際はきちんと配慮されているのかもしれんけど……「本当は怖い擬似乱数の話」を真面目に準備始めるべきだろうか。
dececm というのは、ISDB (日本式デジタル放送規格) の ECM が MULTI2 で暗号化されていると仮定して、総当たりで解いてみようというプログラムで、2ch の匿名ユーザによって昨年の 11 月末に作成されたものです。(私が作ったものではありません。また、ソースが添付されていなかったので、中の詳細も調べていません)
このアプリケーションには 0x0000000000000000 〜 0xffffffffffffffff の範囲を下から順に試していくモードと、乱数で鍵を生成してランダムに試していくモード、二つのモードが用意されていたのですが、この乱数モードを 4 並列で走らせているという書き込みを見てしまった際の感想が上のつぶやきです。
という訳で、この感想の背景事情を説明するためのプログラムソース [URI] です。64 bit 空間は作るのが面倒なので、32 bit 空間で乱数を使って全数探索するとどうなるか調べてみようというプログラムのソースコードです。
注意事項です。ソースコードしか入ってないので、実験する際はコンパイルして使ってください。コンパイラがない場合は Visual C++ 2010 Express とかをインストールしてください。
まずは、標準 C ライブラリに付属の rand() 関数を使って、何も考えずに 32bit 乱数を生成してみます。コードは次の形になります。
unsigned int libc_rand_32_stupid() { unsigned int r = 0; r = (rand() & 0xff) ; // 8 bit r |= (rand() & 0xff) << 8; // 8+8 : 16 bit r |= (rand() & 0xff) << 16; // 8+8+8 : 24 bit r |= (rand() & 0xff) << 24; // 8+8+8+8 : 32 bit return r; }
解説します。欲しいのは 32bit の乱数なのですが、標準 C ライブラリの rand() 関数は 15bit の乱数 (0〜SHORT_MAX) なので、複数回呼び出して 32bit の乱数を合成しています。bit の端数を考えるのが面倒だったので、LSB から 8bit 取ってきて 32bit に埋めていくという非常に安直な手法を使っています。
実行してみると判りますが、これは論外です。MSVC 2010 では周期が 0x400000 (4,194,304) しかなく、目標としている 32bit 空間の 1/1024 しか探索することができません。しかも、seed を変えても結局 2 つのパターンのどちらかが選ばれるだけなので、1/512 に改善するだけで全数探索としては使えないという結論になります。
上であげたコードは頭が悪すぎるので、標準 rand() 関数を使うにしても、もう少しマシにしてみます。コードは次の形になります。
unsigned int libc_rand_32_normal() { unsigned int r = 0; r = ((rand() >> 3) & 0x0fff) ; // 12 bit r |= ((rand() >> 4) & 0x07ff) << 12; // 12+11 : 23 bit r |= ((rand() >> 6) & 0x01ff) << 23; // 12+11+9 : 32 bit return r; }
解説します。今度は、rand() で出てきた 15bit の乱数をなるべく無駄にしないように、3 回の rand() 呼び出しで 32bit 乱数を生成します。また、通説では rand() の戻り値の LSB 側はあまり乱数としての特性が良くないと言われているので、MSB 側を使うようにしてみました。さらに、ほとんど意味はないのですが、rand() の呼び出し毎に採用する bit 数を変動させています。
最初に出した論外ケースと比較すれば少しはマシになって、こちらのバージョンの MSVC 2010 ビルドを実行すると周期が 0x80000000 (2,147,483,648) になっていることが確認できます。ただし、それでも全数探索対象である 32bit 空間の半分しかありません。しかも、こちらは seed を変更しても周期内での開始位置が変わるだけで、生成乱数のトータルのパターンが変わらないというおまけまでつきます。やっぱり全数探索には使えません。一定時間以上経過したら既に評価したところを延々延々繰り返し評価し続けるだけになってしまいます。
標準 C ライブラリの rand() 関数には見切りをつけて、定評のある メルセンヌツイスタ (を SIMD 向けに改良した SFMT [URI]) を使うことにします。こちらは、gen_rand32() 自体が 32bit 乱数を返してくれるので、そのまま戻り値を使うことにします。
メルセンヌ・ツイスタは周期が 2^(19937) なので、32bit 空間を余裕で埋め尽くせます。32bit 空間の全数探索が (標準 rand() 関数と異なり) 可能です。
ですが、乱数を使って全数探索を行うのは非効率です。どの程度非効率かということは検証用プログラムをビルドして実行することで確認できるのですが、32bit 空間の全数探索には、2^32 回の試行では足りず、この 20〜29 倍の試行が必要でした。(なぜこうなるのかについてはバースデー・パラドックスで検索するか、6 面体サイコロを何回投げれば、1〜6 の全部の数字を出すことができるか試してみてください)
32bit 空間の場合は、シーケンシャルに 0 から順に調べていく場合の 20〜29 倍の計算量という結果でしたが、MULTI2 の本来の鍵空間である 64bit 空間では、乱数を使うことによる全数探索に必要な試行回数はさらに増加するはずです。
次の二点が今回のポイントです。
これが、「ランダムモードで dececm を走らせている」人がいると知った際に「う、」と声を漏らした(ありえない!!という感想を抱いた)背景です。
5 年前 [URI] から執念深く傍聴を続けているデジコン委の第62回が、先月、2月14日に開催されました。既に 1 ヶ月が過ぎてはいるのですが、ぼちぼち作成していた非公式議事録 [URI] が完成したので、リンクを張って感想を残していきます。
Impress AV Watch [URI] でも当日の内に報道されている「地上放送 RMP 管理センター」の組織体制報告やスケジュール状況等の報告の議題と、コンテンツ流通促進関連の取組状況報告の議題、大きく分けて二つの議題が取り上げられていました。
このページを見ている方々が気にしているであろう TRMP の進捗に関しては 7 月の放送開始に向けて着々と準備進行中という具合で、特に感想というほどのことはありませんでした。強いてあげるならば、評議委員会関連の説明を聞きながら、私が個人で契約を申し込んで(個人相手にはライセンスを結ばないと言われて)不利益な扱いを受けたとか訴えたりしたら楽しいのかなと感じたぐらいです。
流通振興の取組ですが、aRma の取組等に関して [URI] は特に何もありません。権利処理に要するコストが下がって二次流通が盛んになることは喜ばしいことなので、是非この取組がさらに進んでいってほしいなと思っています。
aRma の発表に関して、後の質疑で出た コーエーテクモ 襟川委員の質問 [URI] からのやり取りは……ちょっと委員会の私物化が過ぎるんじゃないかなと眉をひそめたくなりましたが。
で、ATP 矢島オブザーバの発表 [URI] についてなのですが……前半は良い内容だったと思うのですがね、後半、テレビ局との確執を主張しはじめた辺りからがこう……もちっと主張を控えめにしといた方が説得力が高まったのではないかなと残念です。まあ、堀委員の切って捨て方 [URI] もどうかと思うのですけれど。
フジテレビ、千葉オブザーバの発表 [URI] に関しては、海外番販等の売り上げの、具体的な数字が出ているので、そうしたことに興味のあるかたには面白い内容かもしれません。私は、韓国 ICOP のような、アメリカ SOPA/PIPA のような取組を政府に求めた辺りが興味深かったりしたのですが…… ICOP に関しては、別に政府機関にそうしたものを求めずとも、無料広告放送局が B-CAS 社に払ってる金を振り分ければスグに作れるのじゃないかと、3 年前 [URI] から言い続けてるんですけどね。関連主張部分を抽出すると次になります。
違法行為を行っている人を特定して、その人対して警告を送るなり処罰を下すなりする、そういった形で有れば、他のユーザに不利益はなかった訳ですから、これほどの反発を招くこともなかったでしょう。実際22万を制御することと、残りの1億2593万を制御することのどちらが楽か、普通に考えれば容易に判断ができるはずなのですが、数十社程度の受信機メーカを制御して DRM を導入すれば全てを制御下に置けると考えたのが彼らの間違いだったのだと思います。
こういうことを書くと、違法行為を行っている人を特定するのにどれだけの金がかかると思っているのだと、ネットを監視する人を張り付けておく余裕などないという意見が出るかもしれません。しかし、日経エレクトロニクス 2009年 6月 1日号の「迷走する B-CAS 見直し」によれば、民放各社が B-CAS システムを維持する為に支払っている額は、トータルで年間 60 億に達するとのことです。その 1/10 の 6 億もあれば、ネット監視の為に専任者を 50 人張り付けることもできて、そちらの方が実効性も高かったのではないでしょうか。
実際、一罰百戒という言葉があるように、違法行為を行っている人が処罰を受ける以上に教育効果や抑止効果の高いものは無いと思っているのですが、そちらへ十分な力が注がれることがなく、斜め上の方向への努力が続けられていることが残念でなりません。
IP ラジオ関連の発表は、radiko [URI] の歴史 や ドコデモ FM [URI] の台所事情等が伺えて興味深い内容でした。これまでの発表等で時間を食ってしまい、質疑応答の時間が取られず [URI] 議論が深まることが無かったのがちょっと残念ですね。
えー当日、ひょっとしたら BLACKCAS の話も取り上げられたりするのかなとワクテカしながら聞いていたのですが(朝日新聞の記事が出る前だったためか)特に取り上げられることもなかったので肩透かしな気分でした。
取り上げられるとしたら 4 月初旬に予定されている次回、第63回かなと思うので、開催案内が出たら忘れずに傍聴申請をしたいと思います。議題としては流通を阻害する不正行為を取り上げるらしいので……流石に見ないフリはできないでしょうし。
先週、今国会に提出された著作権法改定案が、文部科学省サイトで公開 [URI] されました。新聞等の報道では、写真の写りこみ等が権利制限規定により合法化されるとされていましたが、この改定案には報道等から漏れていた「アクセスコントロール回避規制」も入っています。
アクセスコントロール回避規制に関しては、「ARIB STD-B25 仕様確認テストプログラム」を作成・公開 [URI] している人間として当事者でもあり、知財本部の「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する WG」[URI] からずっと傍聴を続けていて、この著作権法改定案の直接の契機となった著作権分科会報告書にもあれこれとパブコメ応募 [URI] した立場であり、色々と言いたいことがあるので書いておくことにします。
さて、今回の改定案のうちアクセスコントロール回避規制に関わる部分は、第2条 1項 20号、第30条 1項 2号、第120条の2 第1号 の三か所です。文部科学省で公開されている PDF の中で、絶対に目を通しておかなければいけないのは「新旧対照表」です。
まず、第2条 1項 20号から、見ていくことにします。ここではアクセスコントロール回避規制の対象となる「技術的保護手段」の定義が行われています。新旧対照表のうち、当該部分のみを抜粋すると次のようになります。
新 | 旧 |
二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、 第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権 (以下この号、第三十条第一項第二号及び第百二十条の二第一号において「著作権等」という。) を侵害する行為の防止又は抑止 (著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。) をする手段 (著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。) であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送 (次号において「著作物等」という。) の利用 (著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしてたらならば著作人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。) に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、 若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物等、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音声若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものを言う。 |
二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、 第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権 (以下この号において「著作権等」という。) を侵害する行為の防止又は抑止 (著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。) をする手段 (著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。) であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送 (次号において「著作物等」という。) の利用 (著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしてたらならば著作人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。) に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、 又は送信する方式によるものを言う。 |
この中で重要なのは、一番最後の下線部です。例えば「DVD プレイヤー等 (当該機器) が CSS の復号 (特定の変換) が必要とするように、影像・音声を CSS 暗号化 (変換して) DVD メディア (記録媒体) に記録する」ことが著作権法の技術的保護手段に含まれるようになるということです。
MPEG-2 や H.264/AVC で映像が符号化 (映像圧縮の為にエンコード) されている場合、これも DVD プレイヤー等が特定の変換を必要とするように変換して記録媒体に記録されていることになるが「著作権法の技術的保護手段」に含まれるのだろうかと疑問に感じるかもしれません。しかし、国際標準規格として一般に復号仕様が公開されている MPEG-2 等での映像符号化等は「著作権等を侵害する行為を防止又は抑止をする手段」には該当しないと解されるであろうため「著作権法の技術的保護手段」とは見做されないだろうと判断しています。
この改定のポイントは、これまでは「フラグ方式」や「疑似シンクパルス方式」のみを「著作権法の規制対象である技術的保護手段」としていたのに対して「暗号化方式」も「著作権法の規制対象である技術的保護手段」として追加することにあります。
次に、第30条 1項 2号です。ここは「私的複製」から除外される例として「技術的保護手段」を「回避」した場合について規定している箇所なのですが、同じ所で「技術的保護手段の回避」を定義しているので「アクセスコントロール回避規制」を分析する場合に重要となります。新旧対照表から当該部分を抜粋すると次のようになります。
新 | 旧 |
二 技術的保護手段の回避 (第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変 (記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。) を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された 著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元 (著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。) を行うことにより、 当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、 又は 当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。 第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。) により可能となる複製、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合 | 二 技術的保護手段の回避 (技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変 (記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。) を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、 又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。 第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。) により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合 |
これは、第2条 1項 20号 で追加された暗号方式について、「著作権等を有するものの意思に拠らずにその変換(暗号)を復元(復号)」したら、それは「技術的保護手段の回避」と見做しますよという記述を追加することを目的としているのだろうと思えます。
ポイントは二点です。まず「フラグ方式」「疑似シンクパルス方式」等では「回避と見做されない行為」であった「記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変」が「暗号化方式」では「回避と見做す行為」となっている点が重要です。
次に「著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く」によって、著作権等を有する者が認める場合であれば暗号の復号は「回避」とは見做されないことになっています。おそらく、正規の DVD プレイヤー等による CSS の復号は、この規定によって「回避」ではないとされるのでしょう。
最後に、第120条の2 第1号についてです。ここは「アクセスコントロール回避規制」の「規制」の部分、どのような行為に「罰則」が加えられるかということを規定している部分です。新旧対照表からの抜粋は次のようになります。
新 | 旧 |
第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 一 技術的保護手段の回避を行うことをその機能とする装置 (当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。) 若しくは技術的保護手段の回避を行うことをその機能とするプログラムの複製物を 公衆に譲渡し、若しくは貸与し、 公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化する行為 (当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、 著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る。) をした者 |
第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 一 技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置 (当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。) 若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を 公衆に譲渡し、若しくは貸与し、 公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した者 |
これは、技術的保護手段の回避装置、あるいは回避プログラムを「提供」したり「提供目的で製造・輸入・所持」した場合は「3年以下の懲役、300万以下の罰金 (併科可能)」にしますよという規定です。
改定のポイントは「専ら」が削除されて「著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る」と変更された所にあります。
この改定によって、「疑似シンクパルス方式」の回避装置であるところの所謂「画像安定化装置」は「画像安定化装置」として売る場合には大丈夫だけれども「疑似シンクパルス除去装置」という謳い文句で売った場合にはダメになるのかなと考えています。
今回の著作権法改定案について、「アクセスコントロール回避規制」に関連する改定の趣旨等の解釈・分析は以上です。分量が長くなってきたので、以前書いた [URI] libdvdcss や b25decoder.dll 等への影響についての法文案を読んでの更新は次回に続くとさせてもらいます。
最初に前回の要点を振り返っておきます。この著作権法改定案では、第2条 1項 20号で「技術的保護手段」に「暗号化方式」が加えられ、第30条 1項 2号で「技術的保護手段の回避」の定義と「私的複製」から除外される条件が規定され、第120条の2 第1号で「回避装置」又は「回避プログラム」を提供等した場合の罰則が規定されています。
今回は、著作権法改定案が原案通りに可決成立した場合の「アクセスコントロール回避規制」による DeCSS/libdvdcss や Friio/b25decoder.dll に対する影響を考えてみます。
まず、DeCSS/libdvdcss から考えていきます。DeCSS の機能は、DVD の映像・音声に施されている CSS 暗号を復号し、復号後のデータを HDD 等に保存するというものです。これは、予め施されている変換を復元して複製を行うという、第30条 1項 2号で「私的複製から除外される行為」として規定されるまさにそのものの行為と見做されるであろうと考えています。
従って、DeCSS を使って作成された複製物は、私的複製の結果であるとは見做されず、第30条の2 〜 第47条の10 に至るその他の権利制限規定に該当しない場合は違法複製物と見做されるだろうと考えていますし、また、DeCSS を日本国内で配布・譲渡する場合は、第120条の2 に規定される刑事罰対象となることを覚悟しておく必要があると考えています。
また、著作権法の罰則規定の場合、不正競争防止法と違って「試験・研究目的」の場合の除外規定が存在しませんから「ソースコードで配布しているので試験・研究目的です」という言い訳すらできないものと予想しておくべきだと考えています。
DeCSS の機能をライブラリ化した libdvdcss の場合はどうなるかですが……残念なことに本改定案の第30条 1項 2号で定義されている「回避」は「暗号を復号しての複製」ではなく「暗号を復号して、複製に支障が出ないようにすること」という定義の仕方になってしまいました。つまり「暗号を復号して複製」することが「回避」ではなく「暗号の復号」それ自体が「回避」であると取れる規定の方法になってしまっています。
本著作権法改定案は DVD Forum と正規のライセンス契約を結ばずに 作成された、ただの DVD プレイヤー (復号結果を保存する機能を持たない) であったとしても(権利者等の意思に反して復号を行う) 「回避装置/回避プログラム」であるとすることが可能な条文になっていて、「回避装置/回避プログラム」を提供等した場合には 第120条の2 に規定される罰則が待ち構えているのだと、注意してください。
libdvdcss の配布等に関して抗弁可能な点があるとしたら、これはライブラリであって単独では動作せず、アプリケーションプログラムと組み合わせて初めて動作可能なものであるという主張ぐらいですが……著作権法改定案の条文を見る限りではこの主張が通る可能性は小さそうに見えます。
次に Friio/b25decoder.dll について考えてみます。日本の TV 放送は無料広告放送も含めて全て MULTI2 で暗号化されていますが、この暗号を復号して PC 上で視聴可能とする装置で最初にリリースされたものが Friio であり、b25decoder.dll は Friio の中核であった MULTI2 暗号の復号と同じ処理が可能な DLL です。
これらも DeCSS/libdvdcss と同様に、映像・音声に施された暗号の復号を行っているのですが、 DVD の CSS 等とは異なるポイントが一つあります。DVD の場合は DVD Forum とライセンス契約を結び、NDA を締結しなければ CSS の復号仕様は(公式のルートでは)不明なのに対して、ISDB の MULTI2/B-CAS カードの場合、復号仕様が ARIB STD-B25 という公開規格 [公式 PDF] で一般公開されています。PDF での公開が開始されたのは 2008 年の 4 月 からでしたが、製本版は規格策定当初から 6000 円程度支払えば誰でも入手可能でした。
この ARIB STD-B25 を読めば、一定レベルの技術を持ち合わせている人であれば特に解析等を行うことなく MULTI2 の復号は可能です。昨日私は次のように書きました。
MPEG-2 や H.264/AVC で映像が符号化 (映像圧縮の為にエンコード) されている場合、これも DVD プレイヤー等が特定の変換を必要とするように変換して記録媒体に記録されていることになるが「著作権法の技術的保護手段」に含まれるのだろうかと疑問に感じるかもしれません。しかし、国際標準規格として一般に復号仕様が公開されている MPEG-2 等での映像符号化等は「著作権等を侵害する行為を防止又は抑止をする手段」には該当しないと解されるであろうため「著作権法の技術的保護手段」とは見做されないだろうと判断しています。
同様に考えれば、ISDB の MULTI2 暗号も復号仕様が完全に公開されている以上、「著作権法の技術的保護手段」とは見做されないであろうと言いたいところなのですが……。今回の著作権法改定がアクセスコントロールの「機能」を保護する法であると考えるか、それともアクセスコントロールの「意思」を保護する法だと考えるかでこのポイントの評価は正反対にひっくり返ります。
まず、アクセスコントロールの機能を保護するものだと考える場合、この場合、ものごとは大変シンプルになり、復号仕様が完全公開されている ISDB の MULTI2 暗号は「著作権法の技術的保護手段」に必要な機能を持ち合わせていないのだから「技術的保護手段」ではなくなります。当然ながら復号しても「回避」にはあたらないし、復号装置・プログラムも「回避装置」・「回避プログラム」ではなくなって提供したところで刑事罰対象にはなりません。
一方、著作権者等のアクセスコントロールの意図を保護するものだと考える場合、この場合ものごとは少し複雑になって、たとえ「著作権法の技術的保護手段」に必要な機能を持ち合わせていないとしても、権利者等が「ダビング10」の強制を意図して使っている以上、「著作権法の技術的保護手段」となり、「復号」が「回避」に、復号装置・プログラムも「回避装置」・「回避プログラム」になってしまって、提供が刑事罰対象になります。
常識的に考えれば、例えば「無断複製を避けるためにZIPにパスワードを掛けた」「私が認めるZIP展開ソフト以外は全て『著作権法の技術的保護手段』の『回避プログラム』だ」と主張する特異な人が現れたところで、そうした主張は認められるべきではないだろうと考えています。
常識的に考えれば、今回の著作権法改定案は「技術的保護手段」の「機能」を保護する法律のはずです。
ただし、悲しいことに昨年 1 月の「まねき TV」「ロクラク II」最高裁判決に見られるように、日本の司法には「技術的常識」を期待することができないようなので、最高裁までいきついた挙句「ISDB の MULTI2 暗号は(著作権法の)技術的保護手段である」という判決が出る可能性を否定できません。
無駄に危ない橋を渡りたくないという場合は、b25decoder.dll 等を日本国内で配布しない方が安全であろうと考えます。この著作権法改定案が可決成立して法の施行日前日になってからのことですが、私も「ARIB STD-B25 仕様確認テストプログラムソースコード」は現在の形態での配布を終了する予定でいます。
前回の要点は次の二点です。
以上が今回の著作権法改定案の「アクセスコントロール回避規制」の意図していたことであろう主作用です。今回は、パブコメへの応募意見 [URI] で書いた内容の繰り返しになりますが、「アクセスコントロール回避規制」の副作用について考えてみます。
今回の著作権法改定案で違法とされるのは「著作権等の侵害の防止手段としての暗号を復号した私的複製(ただし刑事罰なし)」と「著作権等の侵害の防止手段としての暗号を復号して、著作権等の侵害を可能にする装置・プログラムの提供等(3年以下の懲役・300万円以下の罰金 [併科可能])」の二つです。
著作権法には「私的複製」以外にも複製権を制限する条項があり、例えば「第31条 図書館等における複製」、「第32条 引用」、「第33条 教科用図書等への複製」、「第35条 学校教育機関における複製」、「第37条 視覚障碍者のための複製」「第37条の2 聴覚障碍者のための複製」「第42条 裁判手続き等における複製」、「第47条の3 プログラムの著作物の複製物の所有者による複製」、「第47条の4 保守・修理のための一時的複製」等があります。
今回違法とされる複製は「私的複製」のみですので、当然ながらその他の権利制限規定で認められる複製の場合は、技術的制限手段を回避して複製を行っても合法です。「図書館等での複製」・「引用」・「学校教育機関における複製」・「視覚・聴覚障碍者のための複製」といった複製であれば、著作権者の許諾を得られない状況でも「複製」を認めた方が「文化の発展に寄与する」と考えられているが為に、著作権法では「権利制限規定」として著作者等の権利を制限しているものです。
しかし、「回避装置」の提供等は刑事罰対象となっています。「回避装置」を入手できない方々はこれらの権利制限規定に沿った利用をすることはできません。
パブコメ後の著作権分科会報告書 [公式 PDF] では「障害者への情報アクセスの確保」という文言が入った (報告書 88 ページ) ので、少しは改定案にもその趣旨が反映されているかと思ったのですが……欠片も見当たりませんね。
権利者の皆さま方、おめでとうございます。あなた方は、今、著作権法の権利制限規定を回避する手段を手に入れようとしています。
DRM を掛けましょう。権利制限規定に沿った公正な利用を求められても、断りましょう。公正な利用を求める人々に回避装置を提供する者がいたら、警察に訴えましょう。
著作者の利益が守られる、素晴らしい未来が手に入りますね。日本の文化はさぞや発展していくことでしょう。
永山 祐二 文化庁 著作権課長、壹貫田 剛史 文化庁 著作権課長補佐、土肥 一史 日本大学大学院教授/文化庁 著作権分科会長&技術的保護手段 WT 座長/知財本部 インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する WG 座長 に感謝の念を捧げましょう。
少し過剰に煽りました。反省します。
反省しました。これだけで終わるとフェアでないように思えるので、補足しておきます。例えば、電子書籍に DRM が掛っている場合、「第31条 図書館等での複製」は不可能になるのか心配される方もいるかもしれません。
今回の著作権法改定案で追加される技術的保護手段は「影像・音声」の暗号化です。「文章」の暗号化ではありません。「電子書籍の版面は影像だ!」と主張される可能性がないとは言い切れませんが、当面の間は、図書館等が「電子書籍等の DRM を回避した複製装置」を国内から入手することが法律上は可能なように思えます。あくまでも、当面の間は。
「実践!統計データを利用して嘘をつく講座」へようこそ。3 月後半になり、日本映像ソフト協会 [URI] で 2011 年の映像メディア作品等の売り上げデータが公開されたので、いつも [1 / 2 / 3 / 4] の講座を開催します。
早速、ジャンル・販売先の別を除いた、総売上高の推移を見てみます。
横軸が年度で、縦軸は売上高(単位は億円)、色を変えている二つの年は、赤で塗っているのが中古ゲームソフト訴訟の影響で映画の著作物の頒布権が消尽するとなった(映画 DVD 等の中古流通が可能という判例ができた)年で、青で塗っているのが、無料広告放送を含めて、全ての放送にコピーコントロールが導入された年です。
見事なまでに、コピーコントロールの導入以来、映像作品の物理メディア市場は縮小を続けていますね。2011年も縮小幅は小さくなったものの前年比マイナスでした。
無料広告放送のコピーコントロール機能の是非が話し合われていた、総務省のデジコン委 [URI] では「権利者への対価の還元やリスペクトにコピーコントロールが必要である」ということでしたが……マーケットの縮小が「対価の還元やリスペクト」なんでしょうかね?
いやー昨年は「まどか☆マギカ」というヒット作があったので、今年は去年までとは違って多少は方針転換しなきゃいけないのかなと思っていたのですが、年後半にヒット作が不在だったようで例年通りに「コピー制御導入以来、市場縮小が続いていますね」とイヤミを書くことができました。
JVA サイトのリリース資料 [URI] を読むと、「震災による自粛の影響で下期の売り上げが伸びなかった」と書いてあるのですが……そうですか、震災直後 3 ヶ月間(上期 1月〜6月)は震災自粛が無くて、3 ヶ月後(下期 6月〜12月)に震災自粛で娯楽消費が伸び悩んだと分析されているのですか……個人的な感覚とは反しますが、専門家の分析ですしきっと正しいのでしょうね。
さて、国内映画・海外映画といったテレビとは関係の薄いジャンルを除き、テレビ放送がファーストウィンドウであろうと思われる 4 ジャンルに注目して売り上げ推移を眺めてみます。
こちら 2010 年は、芸能・趣味と国内アニメの健闘で、昨年比上昇に転じていたのですが……残念ながら 2011 年には、芸能・趣味と国内ドラマの市場縮小の影響で再び前年比マイナスになってしまいました。
きっとこのマーケット縮小は PT2 製造終了に伴って、新しく録画鯖等を導入するのが困難になり、テレビ番組との接触機会が低下したことが原因に違いありません。
さらに、国内アニメ、国内ドラマ、海外ドラマに着目して、2011 年の売上高を比較してみます。
これまでは、海外ドラマと比較して国内ドラマの売り上げは半分程度を推移していたのですが……今回半分を割り込んで、とうとうアジアの海外ドラマよりもシェアが小さくなってしまいました。
主販路であったビデオレンタル店の店舗数減少の影響なのだろうなと分析していまますが、それを補える程度に配信が伸びていることを祈ります。総務省の大本営発表ではきっと素晴らしい数字が示されるのだろうと期待することにします。[参考 PDF : 2011年2月に総務省が公開した資料]
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