2/6 に文化庁 文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会の第7回が開催され、著作権分科会に対して報告する検討経過報告書案の承認を行い、今期の法制問題小委員会は終了しました。
一応今期の法制小委は、別件で傍聴ができなかった 6/29 の第2回を除いて、全て傍聴し、非公式議事録 [第1回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 第6回 | 第7回] を作っていたので、今期の法制小委を通しての感想を残しておきます。
著作権分科会の法制問題小委員会というのは、法律の専門家が集まって、著作権法の条文を変更する必要があるかないか、あるとしたらどういう方向で変更すれば著作権法全体を通しての整合性や、民法・刑法といった上位法との整合性が取れるかということを検討する審議会で、政府(内閣)が著作権法の改定を行う時には必ずこの法制小委での審議を経る運用となっています。
昨年度、平成23年度の法制小委では、国立国会図書館から、公共図書館等に対してスキャンして電子化された書籍データを配信するために、どのような権利制限規定を創設するかという検討を行っていました。一昨年度には日本版フェアユース規定およびアクセスコントロール回避規制に関する検討を行っていました。これらの検討結果は、平成24年度改定著作権法として実際に著作権法の改定が行われています。
今期、平成24年度の法制小委では、間接侵害規定についての検討が行われました。間接侵害規定というのは、間接的な侵害行為、つまり幇助や教唆のようなものに該当する行為について、損害賠償だけでなく差止もできるように著作権法に明文の規定を設けましょうというもので、法制小委の下のワーキングチームの段階から含めると随分昔から検討されていたものだったのですが……
第7回 [URI] の結果としては「著作権法を改定すべき」という報告書としてはまとめることができず、「こんな検討していましたが、まとまりませんでした」という内容の検討経過報告書となって著作権分科会に上がることになりました。
こうした結果になった最大の原因は「まねきTV」「ロクラクII」両事件の最高裁判決です。これらの判決では、TV の遠隔地視聴向けに録画機・端末の設置場所を貸し出していた事業者が「公衆送信・録画の行為主体である」と裁判所によって認定され差止請求と損害賠償請求が共に認められました。
「まねきTV」や「ロクラクII」のようなケースで事業者を間接侵害者ではなく直接侵害行為者として認定する最高裁判決が既に出ていますので、今期の法制小委の審議の中で行われた関係団体ヒアリングでは、主に権利者団体から「裁判所が規範的解釈を駆使して直接行為主体認定してくれるので間接侵害規定はイラネっす」という趣旨の意見が示されまして、結果、数年間かけて議論してきた間接侵害規定はいらない子扱いになってしまいました。
JEITA (機器メーカ団体) からは、「規範的解釈に伴う予見可能性低下を回避するために、ここまでならば適法だということを明確にする意味でも、間接侵害規定を設けてくれ」という意見が出されたのですが、同時に「現在提案されている間接侵害の行為類型はあいまいすぎて何が対象になるのか判らない」という意見も出されていたので、この時点で原案の方向性を維持して報告書にまとまる可能性はまず無くなってしまった訳です。
それに加えて第二の原因として間接侵害規定に関して原案をまとめた司法救済ワーキングチームで座長を務めた 大渕 哲哉 委員のキャラクターもあげられるかもしれません。非常に、非常に話し言葉よりのスピーチをされる方で、非公式議事録を作る際に苦労する方(最近ではこの方の発言に関しては、句読点を打つ努力すらしたくなくなるぐらい。文化庁の公式議事録と比較するとだいたいどういった話し方をされる方か想像できるかと思います)なのですが、そういった個人的な恨みは別にしても……
「従属説(行為主体が著作権侵害でない場合は間接侵害自体が成立しない)を採用した理由は」という質疑で「従属説は当然で自明」という趣旨の回答しかしなかったり、「類型が不明確という意見がヒアリングで出されていたが」という意見に対して「ドイツのような相当因果関係だけにしたかったが、それだとあいまいだと言われたからあの類型でも明確化を図ったものなのだ」という趣旨の回答しかしなかったり……
揚句、今期最後となった第7回の会合では「反対なら代案出せ」[URI] です。この発言を聞いた瞬間「どこのダメ政治家だよ……」との突っ込みが心の中に浮かんでしまいました。
今期のメインテーマであった「間接侵害規定」に関しては「ごらんの有様だよ!!」という状況だった訳ですが、主に権利者団体から「それよりもリーチサイト対策できるようにしてくれ」という意見が出されており、法制小委の主査を務める 土肥 一史 委員から第6回会合で「状況はかなり酷いと痛感。そのまま放置は著作権分科会の法制小委としてよくない」[URI] という認識が示されたり、内閣府の知的財産戦略本部員を務め、過去の法制小委でフェアユース規定導入に対して積極的であった中山 信弘 委員も「差止と損害賠償は当然として、刑事罰を検討しなくてよいのか」[URI] という発言をするような状況でした。
しかし、こちらも「そもそもリーチサイトの定義って何?」「通常のブログやTwitterからのYouTubeへのリンクまで引っかからないようにきちんと定義が必要」「外国業者がリーチサイト提供している場合、国内法でどう対処するの?」「リーチサイト規制の個別規定を設けるにしても、差止・損害賠償の要件として(DMCA のノーティス・テイクダウンのような)手続き規定を入れるべき」といった委員からの指摘に対して詰めきった説明ができるまでに至っておらず、「引き続き状況の把握につとめる」という形で検討経過報告に書きこまれるにとどまりました。
おそらくこのリーチサイト規制と、今期はワーキングチームでも現状把握に努めるだけにとどまったパロディ規定の問題が来期法制小委のメインテーマになるのかなと予想しています。
これは余談ですが、中山委員の「刑事罰は検討しないのか?」という趣旨の意見を聞いた瞬間、「不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆるコンピュータ・ウィルスに関する罪)のように、適用第一号は(いかにもなリーチサイトではなく)その辺のブログ記事からのリンクといったしょぼい案件になるんだろうなー」という 1984 脳も極まった感想が浮かびました。知らない方のために解説すると、ウィルス供用罪の摘発第一号は、インターネットチャットの掲示板(JavaScript のエスケープ処理すらまともにやってない)に新規ブラウザウインドウを開く JavaScript コードを書きこんだ事件 [URI] でした。
警察は「一罰百戒」を謳いつつ、調書等が取りやすい一般人のみを捜査・摘発対象として、本当に摘発されるべき(実被害をもたらしている)悪質なサイトは捜査が面倒なので見過ごされるという素晴らしい未来が容易に想像できます。また、コンピュータウィルス供用罪や映画盗撮防止法の実運用実績を見てもこの予想は当たりそうな気がします。
ただし……刑事罰をも含むようなリーチサイト規制の規定が設けられるにしても、現在の法制小委で出されている「手続き要件」さえ盛り込まれさえすれば、そうした懸念は杞憂に終わってくれるかもしれないと期待しています。